【第339話】新商品、成功の条件
「この商品は、これまでになかった全く新しい商品なんです」と社長。聞けば展示会にも出展して、お客様の反応に手ごたえを感じているとのこと。
お話の全体をお伺いすれば、確かに新しい部分はあり、この商品開発までに既に5年以上を要しており、その道のりに頭の下がる思いです。
そこで、単刀直入に「売れてますか」とお聞きしたところ、途端に社長の顔が曇ります。
それもそのはずです。展示会でブースにいらっしゃるお客様は、商品の説明には耳を傾けてくれるのですが、引合い商談にまでに至らないというのです。
では、なぜこのようなことが起こったのかといえば、この新商品の何が新しかったのかというところにその原因があります。
新商品、何が新しかったか…といえば“製法”です。
ここで詳しくお伝えすることはできませんが、この新商品「これまでにない製法で作られた、これまでと変わり映えしない商品」なのです。
さらに言えば、それを「全く新しい」と言い張るものですから、お客様は、結局「で…???」となってしまうのです。
もうお分かりと思いますが、このような社長の意識から、新商品「渾身のセールストーク」が、単なる「製法の解説」になってしまっているのです。
少し考えれば分かることですが、新商品とは「お客様にどのような“新しい”価値便益をもたらすのか」を伴って、初めてそう呼べるものです。
新商品開発のつもりが、その途中の技術開発に留まってしまっているケースは、頻繁に起こりがちです。残念なことにこの新商品開発はまだ途中なのです。
このような「煮込み不足での販売開始」がなぜ起こってしまうのかといえば、技術開発、商品開発において“お客様意識”が足りていないのです。このお客様意識の低さが、この煮込み不足を招いています。
我々はビジネスマン、商売人、経営者であり、経営結果を数字として求められる現場の人間であるということを忘れてはなりません。
もちろん、新商品の開発には没頭しなければなりません。知らなければならないことも広範ですし、脳ミソがとろけ出しそうになるほど考えなければなりません。そして、お客様にお買い求めいただく手段まで準備しなければならないことは言うまでもありません。
こうした意味で、新商品開発は確かに研究ではあるのですが、その研究の目的が問題です。研究者の研究目的は技術発展にあります。一方、我々、商売人の研究目的は技術を磨きつつ、お客様へのその応用価値を高めるところにあります。
要は、技術自体は特段に目新しくなかったとしても、その応用が新しいことの方が求められているのです。もちろん技術も新しくて、その応用も新しいとなれば、それに越したことはありません。
「この商品はお客様にとってこんな新しい価値便益をもたらします。それは、このような新技術によって実現されています」と言えることが目標イメージです。
このセールストークを聞いていただければお分かりと思いますが、技術自体はお客様の価値便益をもたらすための手段に過ぎないという従属関係にあるということです。
経営者が技術系の場合、それは大切なことではあるのですが、どうしても研究者的な立ち位置にあこがれる傾向から、新商品が「技術自慢」になりがちです。
そして、お客様に伝わらないこと、ご自身の煮込み不足を、「新しい技術、難しい技術だから理解できるはずもない」などと都合よく勘違いしがちです。
新商品がお客様にもたらす新しい価値便益は何か…、その一言が無い限り、その新商品がヒット、ロングセラー、成功…といったことに近づくことは絶対にありません。売れないから製法をもっと改善するなどといった愚策に走らないためにも、まずはこの一言を考えることが大切です。
新商品がお客様にもたらす新しい価値便益は何ですか?
それを伝えられる言葉にできていますか?