【第48話】社長独自の「投資基準」をお持ちですか?
欧米人は新聞を株価情報として読んでいる、と聞きます。もちろん全員が全員とは思いませんが、表現として当たらずといえども遠からずと言えるでしょう。
では、日本人はどうでしょうか。世の中で起こっている事を知ったり、物事へ関心を持ったり、物事の背景を推察したり。。。といった、生きていくための知恵の獲得と考えている方々の方が多いのではないでしょうか。
こういったオモテに見える取組みの背後にどのような意識を持っているかは、その結果の蓄積に大きく影響を及ぼします。
事業経営上、意識の持ち方として重要なものの一つが「投資基準」です。オモテに見える投資はどういった意識の下で実行されているのでしょうか。
事業の成長拡大に必要な投資にあたりどういった目標を課すのか、どういった状態でなければ投資しないのか。。。こういった「投資基準」を設けておくことは極めて有効な意思表示になります。
ただし、難しいのは事業の特質によって向いている設定の考え方が異なるということです。昨今、社長殿とお会いして事業についてお話をお伺いしていると、その説明のパターンは大きく三つに分かれます。説明のパターンはほぼ事業の特質を現します。よって、まず事業の類型をお伝えしていきます。
多くを占める一つ目のパターンは、提供している製品・商品・サービス、主要顧客層、自社の生い立ち、自社を支えている強み・能力、昨今の経営概況…といった流れです。
伝統産業や老舗企業の多くは自社の事業をこういった流れでご説明されます。社会的役割を中心に据えた経営と言えます。今後の取組みとしては人材育成と強みを活かした新たな製品・商品・サービスの開発を挙げられます。
二つ目のパターンは、当社が儲かる理由、昨今の経営概況、世の中の状況変化、それに伴い発生している隙間への着眼、そこを埋めるために導入した新しい方法論=儲かる理由…といった流れです。
ベンチャー企業や起業家と呼ばれる様な方々、企業や事業としてアーリーステージで多い説明順です。社会的発展を中心に据えた経営と言えます。今後の取組みとしては、事業拡大のスピードアップと次なる隙間探しを挙げられます。
三つ目のパターンは、顕在化している社会問題、解決していくべき必要性、国や自治体による取組の不足や制度上の限界、民間活力活用の有効性、複数事業者による連携体制の構築、関係者による収益・費用分担の妥当性…といった流れです。
市場を構造的に見れば公的サービスの民営化であり、これまで公共セクターによる財の再配分に頼ってきた事業領域に、一定程度市場原理を導入しようという、いわゆる“準市場”です。社会的解決を中心に据えた経営と言えます。今後の取組としては、事業の普及と担い手の育成を挙げられます。
この三つの事業類型を踏まえ、望ましい投資基準はどうあるべきでしょうか。
まずパターン1は、世の中で一定の役割を担いつつ蓄積としての成長を目指すため、投資基準として相応しいのは、投資額に見合った売上増加額、利益増加額、販売数量といった「額・量」の設定です。
パターン2は、着眼の斬新さとそこから得られるリターンの可能性で事業を展開していくため、投資基準としては、投資利益率(IRR)や投資回収期間といった「率・速さ」が向いています。
そしてパターン3は、事業の継続性が極めて重要となるため、投資基準としては自己資本比率、固定長期適合率といった財務上の安全指標や、総資産回転率といった資産効率指標の設定が適切といえます。
自社の事業に相応しい「投資基準」を設定することは己を知ることでもあり、経営に根本的な強さをもたらします。
さらに「投資基準」の設定を通じて経営数字に精通することで、分かる未来を見通せるようになることも大変貴重な経営力の向上です。
御社の「投資基準」設定は己の強さを強めるものになっていますか?