【第36話】新事業を成功に導く“数字”の創り方

拙い経験で申し上げれば、大きな新事業プロジェクトほど検討は数字から始まります。投資案件の市場規模や成長率、参入に必要となる初期投資金額、期待される投資リターン、技術的課題の認識と克服可能性、そして歴史・経緯や政治情勢といった定性的な部分も加わります。

 

事業性評価、フィージビリティスタディと呼ばれる検討プロセスは極めて『数字的』です。そういう意味で、大きな投資プロジェクトとは、ある程度把握可能な市場性ありきで、その中で取れるリスクを投資規模で調整しながら参入し勝負していくという面があります。

 

こういった大規模プロジェクトの事業性評価にあたって、検討を命じられた企画担当者はワードよりも先にエクセルを開きます。仕事のほとんどをエクセルで行い、計算が煩雑になってくるとマクロの出番もやってきます。

 

大規模プロジェクトの場合、投資額が大きく回収期間も長いので“数字”の重要性が高いということではあるのですが、では仮に投資額が小さかったとしたら“数字”の重要性は相対的に低くなるのでしょうか。

 

いいえ、そんな事はありません。あくまでも投資回収リスクの観点から数字を見る必要性が下がるだけで、計画全体における“数字”の重要性は変わりません。

 

日頃、お見受けする経営計画や事業計画で、数字の説明から始まっていることは稀です。一方で、数字のお話から入る文脈もあります。それは、前年対比で売上が落ち込んでいる、とか、資金が厳しくなっている、といった場面です。

 

つまり、未来の成長拡大を目指している場面では商品・サービスの話から始まり、経営が厳しい場面では数字の話から始まる。。。ということが多いように感じます。

 

正しくは逆であってほしいと思うのです。未来の成長拡大を目指すのであれば、売上をどのように創っていくのかという数字から。そして逆に経営が厳しい局面になればこそ、自社の能力や商品力に遡って現状を見直してみる必要があります。

 

擁護する立場から補足すれば、未来の成長拡大を目指す場面であれば、売るモノが決まっていなので数字に落とし込むことができないと考えますし、売れない、売れなくなってきたという場面では「いいものだと思っているのに売れない」と考えているので、売りモノそのものに遡って見直すことはせず、売る方法の議論のみに終始する、という状況かとお察しします。

 

経営とは「顧客の創造」です。これは学問的な話ではなくて売上をどう創っていくかという極めて実務的な創意工夫への努力の仕方のことです。

 

これまで“数字”と何度も申し上げてきましたが、みなさまはどんな“数字”を思い浮かべたでしょうか。恐らく、多くの方が「損益計算書」を思い浮かべていたかと思います。

 

ここでいう“数字”とは損益計算書ではありません、主に“売上”のことです。損益計算書の一番上の行、その一行をどう作り上げるのかについての数字、裏付け、構造のことです。例えば、最も単純なものであれば「単価×数量=売上」といった類のものです。

 

費用はその売上を実現していくために必要なものを積み上げていけば良いのです。売上が計画できれば費用は自ずと明らかになります。そして、その差し引きが黒字になっていなければどこかを修正しなければならないという検算でしかありません。

 

数字を作るのに一般的な損益計算書の様式を埋めていくことがありますが、この方法はおススメできません。理由は簡単です。実現するのが最も難しい行、つまり売上の行が1行しかないからです。

 

この一行の裏に隠れている構造や内訳こそが事業の本丸なのですから、ここが設計できない限り、損益計算書上にいくら尤もらしい数字が並んでいたとしても、その数字を実現できる可能性は低いと言わざるを得ません。費用を細かく積算するよりもむしろ売上を細かく積み上げることの方が大切だからです。

 

一般的な様式を使わないのであればどうしたらよいか。それはエクセルを開き真っ白なシートから始めるのです。ここにご自身の事業構想を落とし込んでいきます。売上がどのように積み上がるのか。。。セルに数字や数式を打ち込んでいくのです。新事業に挑戦しているのです。他人が作った前例、様式や計算方法など参考でしかありません。

 

御社の新事業は“数字”で検討していますか?

真っ白なエクセルシートに「売上」を創り込んでいますか?

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