【第342話】野生の王国を生き抜く“迷彩色”な経営のススメ
「世の中の機運を勘案して、社会、環境、地域といったことについて、次期の経営計画では、もっと盛り込んでいこうかと思っているのですが、他社さんはどんな感じなのでしょうか?」と社長。
聞けば、とあるセミナーに出席したところ、CSRからSDGsへ…といったことを聞いて、そういうもんなのかと思いつつ、具体的にどうしていけばいいのか思案中とのこと。
ビジネスはカネ儲けの手段といった経営者もいまだ多い中、世の中への貢献として自社の事業を捉え直すことは素晴らしいことですので、ぜひ考慮されては…とお伝えしました。
ただし、このことを進めていくにあたっては、間違ったり、勘違いしてはならないことがあるということについてもお伝えしました。
まず、大切なことは、こういったビジネスにおける企業の社会的責任という概念は、今に始まったことではないということです。随分と昔から議論されてきたことであり、時代の時々で更新され続けてきたことです。
このため、こういった概念の変遷や議論の背景への理解が甘いまま、経営計画に突然、地域課題への取組みを表明したり、環境問題への対応強化を謳ったり、妙に崇高な事業の社会性を書いてみたり…といったことは、無いよりはましというだけで、本質的ではありません。
概ね、企業の社会的責任は、商品・サービスの提供、利害関係への利益配分、社会規範の順守の3つから成ります。
昨今の議論では、企業が負うべき社会規範順守の範囲が「地球規模」に拡大されたことで、もはや負うべきことが壮大すぎて、結局、根本的な対策の議論が先送りされつつ、「まずは小さくてもできることから」的な対応に終始しがちです。
さらに、その負担を利害関係者の誰が負うのか。従業員と家族、お客様、仕入先、銀行、株主…、誰がそれを負担するのか。これらの利害関係者は、どなたも大切であり、全ての利害関係者に配慮しつつ、どのようにバランスを取っていくのかということが欠かせません。
当然のことながら、事業、ビジネス、会社経営には目的があり、その目的とは突き詰めればこれら利害関係者の優先順位となるため、正解のない難しい命題です。
昨今の風潮は、人類社会の進歩発展を追い求めることは一旦さておき、長期的な視点で共通の目標を目指していこうというものです。これはいわば、“みんなで”という認識醸成であり、足並みを揃えることです。
一方、こういった高い目標の達成にはイノベーションが必要不可欠といいます。このイノベーションというのは、“みんなで”ということが最も似つかわしくないものです。
イノベーションを起こすには先に行く人が必要であり、それは「足並み揃えてみんなでゆっくり歩こう」というよりはむしろ、「限界までもっと早く走ろう」に近いことです。
そもそも、この「みんなでゆっくり」と「もっと早く」という相反するメンタリティを同じ経営計画に織り込むことなど、はなから無理なのです。
そういう意味で、世の中全体として高い目標を目指していく上で、何が起こっていくのかといえば、今後一層、経営の二極化が進んでいくということです。
その二極化とはもうお分かりのとおり「みんなでゆっくり」の経営と「もっと早く」の経営です。これらは、どちらが良い悪いといったことではなくて、必要な役割分担の中で、自社がどちらの立場を担おうとするのかという、経営者のスピリッツの問題です。
ただし、当社は…と、その立場、スピリッツを対外的にあからさまにする必要はありません。そもそも利害関係者のバランスを取らなければならないのが経営者の役目なのです。必要以上に角を立てる必要はありません。
よって、社内的にはマネジメントのためにも自社の立場を明確化しつつも、対外的にはハッキリさせない“迷彩色”に留めておくことが大切です。
我々は、事業経営という野生の王国を生きています。いろいろと違う生き物がいることを前提に、食うためにも食われないためにも“迷彩色”が有効です。
みんなでゆっくり時代にあってイノベーターを目指していますか?
そのスピリッツは外からは分からない“迷彩色”になっていますか?