【第322話】経営を楽にしていく粗利の高め方
「〇〇というニーズがあって、このようなマッチングサービスの提供開始を目指しています」と言う若い社長の声には力がこもります。
ネットの特性を活かして、サイト上で、求めている人と提供できる人のマッチングを図るサービスが目白押しです。
ここで「どの位の単価を想定していますか、採算という視点から勝算は?」とお聞きすると、社長は「今、ネットでマッチングを図るビジネスが熱いんです」と語気が強まります。
ここでの質問の主旨は、マッチングという同じようなビジネスであったとしても、商流全体における位置取りによって、求められるビジネスとしての価値と粗利の構造が違うということを確認するためでした。
それはどういったことかといえば、ビジネスには、大きな意味で位置取り、ポジショニングがあるのです。
これは実に単純なことなのですが、ビジネスには上流と下流があって、そのどこら辺にビジネスを創ろうとしているのか…と言えばイメージしやすいでしょうか。
まずは上流側から、素材・材料といったことを含めてモノを作るビジネスがあります。続いて物流・貯蔵といったことを含めて売るというビジネスがあります。そして、この売るにも再販やメンテナンスといったビジネス、そして、これら全体に関してサービスがあります。
例えば、自動車であれば、材料部品といったことを含めて自動車メーカーがあり、その自動車を販売するディーラーがあり、中古車流通があり、中古車情報サービスがある…といったことです。
大切なことは、この商流全体を見渡して、上流側の利益とは“付加価値”であり、下流に行くに従って“手数料”になっていくというビジネスの性格を理解しておくことです。
さらに重要なのは、サービスという概念がこの商流全体を対象としているため、どのあたりを対象にするかで、その収益性ポテンシャルがある程度決まってしまうことです。
事実、小売・サービス業は、労働集約的で生産性や給与水準が低位にあることが知られています。これは、構造的に見れば、時間が経つにつれてどんどんと商流全体の下流側に行ってしまい、上流側の商売の本質価値のところから遠ざかったことで、安売り体質となり、収益性を喪失していったと理解すべきことです。
このことに気付いた賢明な小売業では、“売る”から“作る”に軸足を移していく戦略で、利益率10%以上というハイパフォーマンスをたたき出している企業もあります。
これを逆から見れば、下流の下流よりその先…といったビジネスは、例えニーズがあったとしても採算に乗せられるような市場に育てるのは相当に難しいということです。
これは実に分かりやすいことです。仮に中古車屋さんを比べる比較サイトがあったとして、その利用料を支払いますか?ということです。探しているのは欲しい中古車であって、良い中古車屋さんではないのです。
少し話はそれましたが、こういった構造的なことについて、理解が浅いまま端的に下流側でビジネスを構想してしまうと、必ずと言っていいほど同様の症状が現れます。
それは、ビジネスにおける妥当な利益という概念における“付加価値”や“手数料”といった商売の範囲を超えて、“取り分”の匂いが漂ってくることです。
さながら、代わりにやってあげたり、手伝ったりしているのだから当然だよね、と言わんばかりですが、そのビジネス行為が端的に下流側にあって、世の中に対する付加価値が極めて小さい場合、そこから対価を得ようとすると、必ず“取り分”臭くなってしまうのです。
ちなみに、ビジネスは世の中の問題を解決するもの、といった主張を耳にしますが、ここで間違ってはいけないのは、ここでいう“問題”状況とは、悪い状況を解決したいといったネガティブな市場のみならず、もっと成長したいといったポジティブな市場も含んでいるという点です。
経営を楽にしようとするならば、商品・サービスの粗利を高める創意工夫が欠かせません。このことと同時に、戦略構築としては、商流全体に目を向け、工夫次第で粗利を創出できる上流側を目指すと共に、付帯サービスではポジティブな市場を向いていく意識が大切です。
成長戦略を描くにあたり上流側を目指していますか?
手数料ではなく付加価値を上げようとしていますか?