【第298話】環境変化を飲み込む強い経営の条件
「リーマンショック、東日本大震災、台風豪雨、コロナ…、100年に一度が毎年みたいなもんですよ。これからはもう、そういう覚悟をしておいた方がいいとさえ思えてきました」と某社長のご挨拶、出席者の顔に苦笑いが浮かびます。
昨今の経営環境の激変で、今後についてどう考えていくべきか、といった文脈の中で、必ず出てくるのがダーウィンのアレです。
そうです、みなさまご存じの「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化に適応できる者である」です。
これは、自然淘汰、自然選択のプロセスを示したもので、『強者生存』ではなく『適者生存』という生物進化の原動力を説明しています。
もちろん、事業経営を永く続けていこうとするならば、「経営環境の変化への適合」は一大命題であって、適合の方向性や道筋を考えてとりまとめたのが、戦略や計画ということです。
しかし、多くの経営計画をお聞かせいただく中で、「これは…」と目を見張る戦略というのは、環境適合だけから出来上がっているのではありません。
大切なことなので、もう少し補足すれば、環境へ適合しつつも、能力・技術の高め方、自社が担おうとする役割、自らの手で未来を変えていこうとする強い意志…、仕事に対する情熱の差が戦略の鮮やかさとなって如実に現れるのです。
これは実に単純な話です。長期的な意味合いにおいて適合しつつも、その中で自らの進化を描けているか…。事後的に環境変化への適合を考えているようでは、カラフルな未来を描けるはずがないのです。
実際、「変化への適合」を口にされる経営者の多くに共通するのは、「いろいろなビジネス」を手掛けておられるという点です。
これをよく言えば、事業ポートフォリオ、多角化、グループ経営、コングロマリッドなどと呼べなくもありませんが、本当にそうなのでしょうか。それら事業間の相乗効果など期待できるのでしょうか。
ちょっと考えれば分かることですが、中小ベンチャーで、資金も人も限られた中で、どちらかといえば後発組なんかであったならば、そういった「いろいろビジネス」の手広さは、参入が簡単で儲かりそうなビジネスを次から次へ…以外の何物でもないといえるでしょう。
そもそも、「変化への適応」とは何なのかと考えたならば、「変化を取り込むこと」に他なりません。つまりこれは、「経営環境の変化はすべてチャンス」と思えるかどうかに掛かっています。
大きな変化を目の当たりにすると、平時には潜んでいた経営の考え方の違いが一気に表面化します。例えば、「マスクを転売する」経営と「マスクを造る」経営の違いです。
ここでお分かりのとおり、変化によって生まれてくるチャンスをどのように取り込んでいくか…を考える際に大切なのが、自社の哲学、判断の“基軸”です。
当たり前ですが、経営の実務において「経営環境への適合」の意味するところは、「持続可能な採算を創る」ことです。
だからと言って何でも…ということではないということは、マスクの例からも明らかです。この差は何かといえば、変化対応の主体性です。
これは言い換えるならば、世の中からの問いに迫られて“回答”するような経営ではなくて、自ら掲げた目標を出題として自らそれに“解答”していくような経営ということです。
そのためには、目先の利ザヤ、儲かりそうといったことに“お戯れ”せず、一意専心、能力・技術を高めながら長期的な視点で変化を取り込んでいく意識が大切です。
環境適合を口にする必要のない経営というのは、環境変化以上の変化が「いつものこと」になっているからに他なりません。
この能力・技術を判断の“基軸”として、その応用や用途で変化を取り込んでいくことが、永く強く採算を創っていく一本道といえるでしょう。
環境変化を前提としていますか?
環境変化以上の変化を自らに与え続けていますか?