【第242話】アイデアを新事業に高めるための手順と成功条件
「新しいサービスを開発して売り出したのですが、お客様の反応がイマイチでして…」、あるいは「ロングセラー商品だったのですが売れ行きが陰ってきまして…」といった場合、ある共通の原因が考えられます。
その原因とは、「需要に対して供給が満たされている」ということです。そこはもう「足りている」世界なのです。
ある時代に生まれた新しい需要は、成長しているが故に供給者はどんどんと増えていきます。そしていずれ需給のバランスが満たされることになります。そういった均衡状態が長く続けば良いのですが、いずれ、今の需要は新たな需要に食われて減退していくことになります。
これは、「ライフサイクル」として知られる法則であり、ビジネスの宿命なのです。
そういった意味で、売上が横ばい…というのは、安心すべきことではなくて、「自分たちが棲んでいる世界が満たされつつあるシグナル」と読むべきでしょう。
ここで経営者には二つの戦略があります。一つは「今の需要の中で勝負し続ける戦略」です。もう一つは、「今とは異なる新たな需要を考える戦略」です。
今の需要の中で戦う場合、どうしても価格勝負の体力戦になりがちです。ですから、今の需要が減退する限り、いずれは新たな需要を興さなければなりません。そういった意味で、実のところ価格勝負というのは延命策に過ぎないことでもあります。
そのため、永い目で見て独立自尊の経営で身を立てていこうとするならば、「新たな需要」を考えていくことが欠かせません。
ところが、ここで多くの経営者が間違います。これが前述のご質問、「新しいサービスを開発して売り出したのですが、お客様の反応がイマイチでして…」に集約されています。
その間違い方とは、「新製品・新サービスを生み出す」ことと、「新たな需要を生み出す」ことを混同していることに起因します。
足りてる時代なのです。新たな需要を創ろうとする意識を持ってビジネスの準備を進めるならば、「新しい製品・サービス」を創っただけでは、準備が足りてないことは明らかです。
これは至って当然のことです。お客様からすれば、製品・サービスというのは何らかの“状態”を手に入れるための道具でしかありません。よって、新しい製品・サービスがもたらす“状態”が、今と同じであったならば、新しい製品・サービスなど必要ないのです。
新しい製品・サービスが、お客様を新たな“状態”へお連れできていなければなりません。
大切なことなのでもう少し詳しくお伝えすれば、新事業の準備とは「新たな需要を掘り起こす」ためのものであって、「新製品・新サービスを完成させる」だけでは足りていないということなのです。
つまり、新事業を成功させる準備とは、「新製品・新サービスの完成」はまだ必要条件を満たしただけであって、「需要創出への準備」があって初めて十分条件まで満たすのです。
このことを念頭に新事業の立ち上げを始めることが大切です。新製品・新サービスは、お客様にどのような「新しい“状態”」をもたらすのか。このことを考えることが肝心です。
お客様にとって、この「新しい“状態”」が価値であり対価を支払う理由です。御社の新製品・新サービスがお客様にどのような「新しい“状態”」をもたらすことができるのか…。新製品・新サービスという必要条件と、「新しい“状態”」という十分条件を考えるもう一工夫が大切です。
今の需要を抜け出し、新たな需要を創ろうとしていますか?
その新事業は必要条件だけでなく十分条件まで整っていますか?