【第192話】製品開発の頓挫感が成功シグナルである法則的理由

大変尊敬申し上げているとある企業の社長は技術系のご出身。新事業プロジェクトの会議も終わろうとする頃の雑談の中で売上拡大のお話に触れ「社長は技術系じゃない方が良いかもしれないな、技術のリスクを知っているから慎重になってしまうところがある」と。

 

「その慎重さとは、お客様への思いやりですから素晴らしいことです」、「経験的に技術の会社は、技術系社長の方が成長させる可能性が高い」ことをお伝えしました。

 

よく日本の企業は、商品化が遅いとか、技術はあるのにビジネスが下手くそとか、リスクを取らないなどと言われますが、そう見えてしまうのも仕方のない理由があります。

 

例えば、お掃除ロボットのようなものは、某外国企業のモノであれば家具に当たって傷つけたとしても、日本人は「まあこんなもんだろう」と考えます。一方、日本メーカーのモノであったならば「家具を傷つけた」とクレームに発展してしまいます。日本メーカーはユーザーから求められている期待水準、完成度が違うのです。

 

日本人の技術者は、「家具を傷つけてしまうかもしれない」、「仏壇に当たってロウソクが倒れたら火事になってしまうかもしれない」、「ペットが乗っかってケガをしたら」など、通常使用の範囲を超えた異常な使い方にさえも思いを馳せています。

 

製造物責任は無過失でも問われてしまうという法的なプレシャーもあるでしょうが、慎重になるのはお客様への思いやりの現れであって恥ずかしいことではありません。

 

こういった研究開発の最先端には、独特の孤独感が漂います。その分野において先頭に立ってしまうのですから、周辺の理論については学ぶことができたとしても、本当に何とかしたい部分については誰かに教えてもらうことができないからです。もうここから先は、自分たちで考えて何とかするしかないのです。

 

不思議なもので、昨日の続きの今日のはずなのに、突然、頓挫感が漂い、一瞬、チーム内がピリッとしたりすることがあります。

 

ですが、こういった一瞬の息継ぎというのは、例えるならば飛行機が音速を超える瞬間に放つソニックブームみたいなものです。プロジェクトが特異点に到達した証拠であって、成功前に必ず発生する自然法則なのです。

 

どんな仕事でも特異点あたりが一番辛いものです。こういった時は、頭のネジを2,3本引っこ抜いてみることが得策です。もう理屈ではありません。一瞬だけ考えるのをやめて、頭と体を分けて、体だけ動かしてみる意識です。

 

ひたすら式を解いてみたり、実験したり、データを整理したり…、頭は冷静に保ちつつ動くことが大切です。もう特異点まで来ているということは、ここから先はこちらに有利な状況にモードが変わっているはずなのです。

 

この際、大切なことがあります。それは、「ご自身の強みに立脚すること」です。苦しくなったからといって、決してどこかご自身以外のところに策を求めてはなりません。

 

ビジネスにおいて進歩性を追い求める場合、二つの切り口があります。それは、優位性と独自性です。優位性とはこれまでよりも高く・遠くに、独自性とはこれまでとは違う領域を切り拓くことです。

 

ご自身の強みに立脚することで、何が嬉しいかと言えば…、独自性と優位性の両方を手に入れることができることです。独自の領域であれば優位に決まっているのです。

 

一方、解決策を他に求めると優位性は手に入ったとしても独自性は付いてきません。なぜだかこういう方に限って独自性を語ろうとするから不思議です。ご自身でも本当は気付いているのです。最後の最後でパクッて自力で壁を超えきれていないことに。

 

中小ベンチャー企業にとって独自性こそが勲章です。独自性を追い求めればオマケで優位性も付いてきます。

 

他社と同じレールを走って、追いついた…などと安心している場合ではありません。ためらわず新領域に踏み出していくべきです。

 

そしてその際、どんなに自社の能力技術が古典的で弱そうに見えても全く問題ありません。ビジネスで問われているのは能力そのものではなくて「能力をお客様のために使う応用力」だからです。

 

プロジェクトは特異点を超えていますか?

優位性ではなく独自性を目指していますか?

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