【第152話】“借金”が経営に与える本当の意味とその心得
「従業員が増えてきたので、打合せスペースを軸にオフィスをリニューアルするんです」、「〇億円に届くと、私が社長になってから売り上げが倍になるんです。そこを目指して、物流拠点を新設する予定です」、「工場を増設して本社を移転しました。おカネ使っちゃった」。
理想を掲げて目指して、その実現のために猛進していく。そして、しっかりと稼ぎつつ必要なおカネを投下していく。経営が投資である以上、こうした精神性こそが経営者に求められるハングリーさです。
こういったハングリーな社長の下で働けるというのは、とても幸せなことです。その理由は簡単です。意識が未来に向いているからです。
社長とは未来を見据える人。ですから、理想とする未来が語れないならば、社長力としての根本を欠いていると言わざるを得ません。
一方で、おカネを使うだけなら誰にでもできることです。投資という名の下に、欲しいものを買っただけ…ということにならないための条件は、投資に対するリターンの目論見、採算がしっかりとしていることです。
もちろん、本質的に大切なのは、お客様や世の中のお役に立っていくことですが、事業が自主独立な活動である以上、しっかりと採算を維持していくことは、世に必要とされていることの証明でもあります。
投資にあたっては、その投資のおカネがどういったものなのかによって、事情は変わってきます。これまでの利益を蓄積してきたものであれば、どんどんご自由に投資すればよいでしょう。仮にこの投資が失敗しても、過去に稼いだおカネがその分だけ無くなるだけです。
一方、設備投資のおカネを“借金”で賄うとなれば、話は違ってきます。金利や元本の返済を計画しなければなりません。
要は、先に稼いだおカネで投資するのか、これから返していかなければならないおカネで投資するのか、トライし得るギャンブル性のレベル感が全く違ってくるということです。
稀に、借りたおカネを返さなければ良い…といった、奇を衒った言いぶりをする方々にお会いすることがあります。
実際に、借入金を増やしながら事業へ投下する総資産を増やし、売上を拡大させていく経営もあります。しかしこれは借りたおカネを返すという信用を積み上げることで、もっと大きく借りているのであって、借りたおカネを返さないこととは根本姿勢が違います。
そういうことであれば、最初から返済不要な出資で資金を調達すればよいし、あるいは、満期まで元本返済が不要な社債など、様々な資金調達法があるわけですから、事業リスクや収支構造に見合った方法を考えればよいだけです。
世の中、おカネは余っています。投資ファンドでプレゼンすれば「倍出す」と言われることもあるほどです。資金を出したいといわれる事業を構想することが大切なのです。
少し話が逸れましたが、経営において“借金”とは、まだ実現していない将来時点で稼ぐ予定のおカネを前借りしているということです。それによって、おカネを貯めてからじゃないとできなかった未来事業を今始めることができるのです。
そういう意味で“借金”すれば、我慢せずに未来を今に引き寄せて実現できてしまうのです。これが経営者にとって“借金”が魅惑的な理由です。
この魅惑に踊らされず、しっかりと“借金”の意味を理解し、その上で投資していくことが肝要です。“借金”の意味とは、事業を開始することに対する宣言ではなく、続けていくことに対する宣言だということです。
なぜならば、未来を今に引き寄せて先取りしているのですから、それに見合った未来時点までは、その事業を続けていかないと、時間軸としてツジツマが合わないからです。
つまり本当にお伝えしたいのは、「“借金”は一生涯を貫く仕事の下ではじめて意味を宿す」ということです。それと同時に、一発逆転?といった発想で使うものではないことは言うまでもありません。
一か八かの事業を“借金”でやろうとしていませんか?
一生の仕事と決めてから“借金”していますか?