【第113話】成長投資で経営を高める企業とリスクだけ高める企業の違い
多くの人が、リスクとリターンは一対で、リスクをとるからリターンが得られると考えています。
どれだけリスクをとって、どれだけの利益を出すか。金融資産の運用や市場性商品のトレーディングといった金融事業なら、資産価値の上がり下がりリスクを考えれば良いので、こういった考え方にハマりやすいのでしょう。
ところが、携帯が普及したらマンガ、CD、腕時計が売れなくなった。。。どんな環境変化が自社にどのような影響を及ぼすのか、どこまでをリスクと捉えるべきかも不明確な実態事業を営む上で、果たしてリスクをとりさえすればリターンが得られるなどと信じて良いのでしょうか?
飛行機の墜落リスクが高いほど、楽しい旅行になるでしょうか?
タイガーウッズとゴルフで勝負して賞金を得られるでしょうか?
投資金額の大きさが、高いリターンを生むのでしょうか?
望むリターンを得たければ、そのリターンを生みやすいリスクのとり方があります。著しく勝算の低い勝負に賭けるとなれば、それでは宝くじを買うのと何ら変わりません。
そして、もっとも魅惑的なのが投資の大きさです。投資額が大きくなれば事業規模も大きくなるので、目指す売上も大きくなります。よって、そこから生まれる利益も大きくなることを期待してしまいます。
常々、「経営は投資です。戦略的に投資を進めましょう。」と申し上げておりますが、闇雲に突っ込んで行きましょうということではありません。
リーマンショック以降、「リスクアペタイト」という言葉を聞くようになりました。金融機関が著しく過剰にリスクをとって、莫大なリターンを得て、その経営者がこれだけ儲けているんだからと高額の報酬を得る一方、その企業が破たんしても、法人である以上、有限責任であるというリスク非対称な状況を統制する考え方です。
「アペタイト(appetite)」とは食欲、欲求という意味ですが、リスクアペタイトという考え方は、リスクをとりましょうというよりは、むしろ企業の健全性の範囲にとるリスクを抑えましょうということです。
「日本企業はリスクをとらない」などと言われますが、全くそうは思いません。経営者はもうそれなりにリスクをとっていますし、経営者は事業機会という次のリスクに常にさらされています。ですから、簡単に始められるような事業であれば、やらないよりもやる方が安易な道とさえ言えるのです。
投資によって負うリスクとはリターンの不確実性、つまり収益性リスクです。よって、「投資に対して高いリターンが期待できる状態」を事前に創ることで、投資リスクを軽減することができるということです。
投資によって経営を高める企業は、売上の拡大よりもリターン、すなわち利益の向上に意識があります。よって、粗利益率、質的な向上に投資します。
一方、リスクだけ高めてしまう企業は、売上に意識があるため、量産に意識がいきます。量的な向上で売上を拡大し利益を得ようとします。
我々は、リスクをなるべく抑えながらリターンを最大化したいのです。そのためにはどんな視点で投資を企てるかということです。質的投資、量的投資。。。どちらを選択するべきかは自ずと明らかでしょう。
もちろん、質的な向上への投資は結果的に量的な拡大にもつながります。ですが、一義的にどちらに意識を置くかということです。実態事業の経営において、小さな資本で大きく稼ぐ。そのために粗利益率の高い事業モデルの構築は根元的なリスク対策なのです。
そして大切なのが、投資の大きさへの魅惑に打ち勝つことです。10億円投資でリターン1%を選ぶのか、1億円投資でリターン10%を企画するのか。そのためにも、リターンは金額ではなく率で捉えておくことが大切です。
時代そのものがハイリスクです。小さくても売れさえすれば儲かる仕組みを先ず創って、そのリターンを再投資して成長拡大を実現していくという成長プロセスをお勧めします。借入金で先に事業を拡大して後から儲けることもできますが、どこか疲れてしまいます。
投資の意識は粗利益率の向上、質的な向上に向いていますか?
投資リターンは額ではなく率で捉えていますか?