【第102話】“今”を動かすブレーキの外し方

「昔の方が良かった」などと従業員に言われて悲しい気持ちになったご経験は一度や二度ではないでしょう。

 

頑張って会社を大きくしてきたし、労働条件や職場環境だって整えてきたのに。。。意見を聞きたいとは言ったものの、いくら何でも、もう少し言い方くらいはあるだろう。。。という気持ちは想像に難くありません。

 

成長に向けた打ち手というのは、往々にして世の中や組織内の均衡を破りにいくことでもあります。

 

ですから、これまで是とされてきた世の中の価値観に対して新たな価値軸を打ち出したり、社内的に良しとされてきたことを変えていかなければならなかったりと、変化から発生するストレスで文句の一つも出てくるのは想定の範囲内と言えるでしょう。

 

新事業構築、新製品開発、大規模投資…こういった成長投資プロジェクトを進めていくにあたり、そのプロジェクトメンバーの中でさえ、「はい」とは言うがなかなかやらないといった消極的抵抗を示す人も出てきます。

 

こういった時は腹を立てず「これは人間の感情として致し方ないことだ」と割り切ることが大切です。バンジージャンプの会場まで行ったとしても、いざ飛ぼうという時にはもう一度ためらいが出るのと同じです。

 

覚悟ができていても怖いモノは怖い。ただ、その怖さを想像しているということは、気持ちとしてはもうジャンプ台に立ったことを想像しているからだといえます。心の準備は整いつつあるのです。

 

こういった抵抗感の中身は「“未来”が変わってしまう不安感」だけではありません。もう一つ、配慮すべき大切な心情があります。それが「“今”に対する否定感」です。

 

何か新しいことをやるということは、“今”が十分ではないというメッセージを発することに等しいのです。

 

経営側からみても“今”に至った経緯や理由があります。従業員側からしても“今”には居場所があります。これは、“今”が良くも悪くも一つの均衡点になっているということであって、その均衡を崩してまで“今”の居場所を失いたくないと、抵抗感が生まれるのが心情というものです。

 

「このままじゃダメだからもっと頑張らなければならない」という現実は、多くの経営上の実態です。ですが、このままの文脈で話してしまうと、プロジェクトを推進する力は“今”を否定することにつながるため、均衡点からなかなか動かない可能性が高いといえます。

 

“今”を否定せずに“今”を前進させていくために、均衡点にある組織の重心を動かそうという場合に有効なのが『目標設定』です。経営者にとって『目標設定』は、意志を現すのに重要な役割を果たします。

 

ここでいう『目標設定』とは、翌期の売上高と利益など。。。といった短期の目標ではありません。「この新事業で3年後には〇億円、5年後には△億円を目指す!!」といった中長期的な目標です。

 

短期の目標は保守的に絶対死守ラインを示す一方で、中長期の目標で御社が目指す未来構想として、より積極的で挑戦的な『絵』を描いていくべきです。

 

中長期目標というのは経営者の意思表示です。上場企業であれば経営計画における目標値は経営のコミットメントラインとして株価にも影響を与えるため、根拠ある数値設定でなければなりませんが、非上場の場合、目指すという意味の目標として、挑戦的に設定することはやぶさかではありません。

 

経営における挑戦心の発露は、非常に難しいということを分かった上で、それでもなお我々は目指すんだという意思表示を行えるか否かにかかっています。

 

そしてさらに、「当社は〇〇のために〇〇技術で〇〇を目指す」といった、その先にある事業の本質的な目標が書き添えられれば、いよいよ均衡した“今”の重心が動き始めます。

 

社長殿が考え抜いた結果生み出した、独自の世界観あふれる豊かな『目標設定』こそが、均衡している“今”を前進させていくのです。

 

御社では中長期の『目標設定』を行っていますか?

『目標設定』には社長殿の意志を込めていますか?

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