【第374話】経営者の情熱とは“感情”か“勘定”か?!
「社内の雰囲気が変わってきまして…、何と言いますか、情熱が高まってきたという感じです」と社長は嬉しそうにお話くださいます。
まだ、新たな取り組みを始めたばかりですが、自社の強みを理解し始めたことで、自分たちは割とイケてる、何となくやるべきことが見えてきた、次の取組みも行けそうな気がする…といったところでしょうか。
その昔から、「経営には情熱が必要」と言われます。実際、経営を伸ばされている社長は、情熱的で、多少の傷を抱えながらも日々の活力に満ちています。
そうであるとするならば、この格言を日々の経営にどのように活かしていくのかという具体的な理解が欠かせません。
情熱とは、「ある物事に向かって気持ちが燃え立つこと」を意味するようです。これをシンプルに捉えるならば、情熱とは気持ち、“感情”の問題といえるでしょう。
ところが、事業経営における情熱が単に気持ちの問題なのかと言われれば、どこか違うように感じますし、何か足りていないように思われます。
ここで情熱とは、熱、熱さ、熱量…、気持ち、感情のことであるため、ある一瞬の感情で熱量が高いと、どこか情熱的…に見えてしまいます。
ここに情熱に大切な条件が見えてきます。情熱とは感情が熱っぽいことだけでなく、その熱を維持し続けることといえるでしょう。
例えば、サーフィンの体験レッスンに初めて参加することも挑戦的であり、ある意味、熱量や興奮を覚えることです。
ただし、物事を始めることも情熱ですが、これを続けることの方がはるかに高い情熱が必要であることは、想像に難くないことでしょう。
これをもう少し一般化すれば、情熱とはある困難なレベルを目指し、その達成に向けて取組み続けている過程に対することだといえるでしょう。
これを事業経営に置き換えてみれば、今のレベルでは達成困難な目標の達成に向けて取組み始めることですし、それをやりきることに対する持続的な熱量の維持が情熱と呼べることです。
もう少し補足するならば、経営に必要な情熱とは、熱量の維持であり、それは情熱を持ってどんな商売であろうとも、それを採算に乗せるレベルにまで仕上げきる努力姿勢のことです。
この意味で、経営における情熱とは、“感情”というよりも、むしろ“勘定”であり、好きなことをやるだけでなく、それを商売として持続していける採算に乗せることが大切です。
好きなだけならば趣味、それを採算に乗せるから事業なのです。
新商品を完成させる情熱、採算の上がる生産の仕組みを構築する情熱、しっかりと売り切る情熱、そして販売後もしっかりとフォローし続ける情熱…といった事業として当然のことを粛々と、しかし高い情熱のレベルで継続して、勘定に乗せる努力が大切です。
一つだけハッキリ言えることは、この本物の情熱とは、量ではなくて質だということです。
量的な拡大に先立って、採算性を高める質的な向上に対する情熱が大切です。
高い目標が、量的になってしまっていないか、質的になっているか…、今一度、確認が欠かせません。量的な向上とは行動的な努力、質的な向上とは思考的努力です。
新たな事業を採算に乗せるということには、質的、量的、二つの道があります。本物の成長発展を目指すならば、これには順番があって、質的に努力してから量的な努力をすることが欠かせません。
ここで質的とは、重ねていく、積み上げていく、深く掘り続ける…、こうした継続的な努力であり、一瞬の情熱というよりは、粛々と持続した情熱なのです。
経営の情熱は量よりも質を優先していますか?
その情熱は一瞬の“感情”を越えて、持続性ある“勘定”になっていますか?