【第268話】安定した売上が低収益化を招く構造的な理由

「ここ数年、売上は横ばいを“キープ”しています」という話を耳にした際、必ずお聞きしていることがあります。それは「利益、収益性はいかがですか?」ということです。

 

こうした状態の時、普通に考えるならば、追加の設備投資を行っていなければ減価償却費が下がったり、累積生産量の増加に伴って手際が良くなることで生産性が上がったり、などということで売上が横ばいであっても利益は増えるはずです。

 

つまり、理屈的に考えるならば、収益性は上がっているだろうと想像されます。

 

ところが…、大抵の場合、収益性は落ちています。思い当たるところがあるでしょうか。あるいは、「あの時…」、大変だった時期を思い出されたりするかもしれません。

 

それはともかくとして、このように売上が落ちていない、キープしているという状況から、これからどうなるかを推察してみると、どんな状況が予想されるでしょうか。

 

もう少し具体的にお聞きするならば、売上が上がる可能性と、下がる可能性、どちらが高いでしょうか? 「上がる」と「下がる」、選択肢は二つですから可能性は半々…。

 

しかし実のところ、経験からお伝えしますと「下がる」可能性が限りなく高いといえます。そして、その「上がる」「下がる」を推察するための指標が、利益、収益性なのです。

 

ちなみに、売上をキープしている状態において収益性が上がっているのであれば、この先の売上は上昇に転じる可能性が高く、反対に収益性が下がっているのであれば、売上は減少に転じる可能性が高いといえます。

 

経験豊富な経営者であるならば、この感覚的な法則をご理解いただけるものと思います。不思議なもので、売上には“質”があるのです。そのことに薄々気付きながらも、なぜ打ち手が遅れてしまうのでしょうか。

 

ここでまず、経営者には売上が落ちていなければひとまず安心という心理が働きます。それもそのはずです、当然のことながら、経営者は常に売上の不確実性の世界に生きています。

 

このため、売上を「落とさなかった」、「落ちなかった」というだけでも、事実、なかなかに大変なことであり、頑張った結果でもあるのです。

 

このため、売上キープの状態の中で「来期はもっと頑張ろう」などと言ったならば、「もう頑張っています」、「やれることはやっています」、「これ以上を目指したら従業員が辞めちゃいます」といった反応が返ってくることも想像に難くありません。

 

そして、経営者の頭の中でも「まずまずなんだから」との認識が形成され、「合格点」な雰囲気が漂うことになります。

 

当然のことながら、経営者ほど結果責任、売上リスクにさらされています。そして採算、利益のリスクにもさらされています。このことは、実のところ、従業員よりも経営者の方が心の奥底では「確実な売上」を求めていることを意味しています。

 

ここで、「確実な売上」というのはどういうことなのでしょうか。リスクとリターンというシンプルな法則に従って考えたならば、確実な売上は収益性が低く、不確実な売上は高い収益性の可能性を持っています。

 

例えば、来年の生産能力が全て埋まっている工場を想像してみていただきたいのです。この受注による採算は良くてトントン、受注単価は原価に収束していることが伺えます。このことは、安定した売上を獲得するために、もっと高い単価の仕事の可能性を自ら放棄してしまっていることを意味します。

 

確実な売上の下では、良くても生かさず殺さずの収益性しか生まれません。目先の売上を確定させないことで、高収益な仕事を獲得できる可能性を手に入れることができるのです。

 

面白いのは、先に売ることによる安定を目指さず、本当に欲しいと言ってくださるお客様に良い価格でご購入いただくために、徹底的に準備して“機”を待つことがリスクを取ることの実務だということです。

 

経営者が売上の成長を求めなければならない理由もここにあります。売上を安定化、つまり下げないようにしようと考えた瞬間から、収益性を喪失してしまう構造にあります。それは、安定した売上を獲得しようとする心情から、成長側の可能性も潰してしまうからです。

 

本当に欲しいと言ってくださるお客様と出会おうとしていますか?

売上リスクを取ってでも、それ以上の収益性向上に賭けていますか?

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