【第148話】“副業”で未来を築くことができると思いますか?
ほとんどの企業が従業員の“副業”を禁止したり許可制にしています。これは、自社の技術・ノウハウの流出、競業・利益流出、社名の流用や信用棄損、寝不足などによる就業・勤務態度の悪化、離職…、こういった懸念理由によって合理的と理解されています。
ところが、社長が新事業を始めるとなると、これを「それは“副業”ではありませんか?」などと言われることはありません。
ですから、社長に限っては、新事業という一見前向きで積極的な取り組みの名の下で、“副業”に手を出してしまうことができてしまいす。
端的に申し上げれば、社長や経営者はご自分で決めればビジネスとして何でもできてしまいます。だからこそ、しっかりと口先のツジツマ合わせではない、本質的な筋を通していくことが大切です。
そうしなければ、従業員に“副業”を禁止しておきながら、ご自身では“副業”に手を出してしまうという、なんとも皮肉なことが起こりえます。
こういった数々の前例を拝見してきました。そして、これらの経験から結論を申し上げれば、“副業”で豊かな未来を築くことはできません。それどころか、従業員の離職、利益性の悪化、お客様からのクレーム…、望まぬ事態ばかりを巻き起こすことになります。
そして、「私はこんなに頑張っているのに、なんでこんなことに…」といった、辛い体験が待っています。
経営の判断ミスは大きく見れば「筋違い」と「急ぎすぎ」に帰着します。筋違いの判断でそんな状況に陥らないためにも“本業”と“副業”の違いに対する認識がとても大切です。
少しふざけた言い方をすれば、「“副業”は“本業”以外」です。つまり、“副業”に走って失敗しないためには、当然のことながら“本業”意識を正しく持っていることが前提です。
一方で、この“本業”意識が低すぎたり狭すぎたりすることは、企業の成長発展にとって阻害要因となり得ます。そう気づけば、本物の成長発展とは“本業”の意識や範囲を拡大していくことによるものとの認識に至ることができるでしょう。
まず、大前提としてお伝えしたいのは、「ビジネスとはお客様のために働いて、その対価をいただくこと」だということです。そして利益の源泉は創意工夫による付加価値です。「そんなの当たり前では?」と思っていただけると、とてもうれしいのですが。
なぜなら昨今、「仕組み」という用語を「おカネを集めるシステム」のごとく勘違いされている風潮を感じることがあるからです。おカネを集めるために働く…、何とも残念な働き方です。
さて、話を元に戻し、お客様のために働きその対価をいただくためには、お客様のためにどう働くのかという能力や技術が原点にあるということに気づきます。
この原点に対する意識こそが“本業”意識であり、実はその能力・技術がカタチになった製品・サービス自体ではないのです。
この原点を持つことの効用は絶大です。筋違いの判断を防止しつつ、この原点である能力・技術を高めながら、能力・技術の応用シーンを拡大することで売上・利益を拡大していく…という成長発展の王道を歩むことを可能にします。
例えば、鉄を火であぶりつつ水で冷やすことで曲げていく鐃鉄(ぎょうてつ)という技術があります。この技術で鉄の船を造ってきたとある企業は、プラスチック複合材料の台頭による鉄船の需要減少を受け、今では建物向けの鉄のモニュメント造りなどを手掛ける建設業となっています。
あるいは、フランスのファッションブランド「エルメス」は、馬具工房として創業しましたが、自動車の普及による馬車関連品の需要減少に対応し、革加工技術という基本能力を鞄や財布といった革製品に向けることで現在の地位を築いています。
「基礎となる能力・技術を、お客様のために応用していくための創意工夫」が付加価値の基本型であって、この型で高収益を実現することで資金の自己調達を可能とし、その再投資による事業規模の拡大を進めることで、御社らしい本物の成長発展の道を歩むことができるのです。
御社の原点、核となる能力・技術についてしっかりと把握していますか?
その新事業は御社にとって本当に“本業”と呼べるものですか?