【第70話】決算書には出てこない大切な経営数字とは

常々、事業経営というのはとても因果な仕事だと感じています。それは、資金的に見ると大なり小なり必ず凹んだ状況から始まるからです。

 

必要な能力を鍛え、設備を整えて、材料を仕入れて、給料を支払って、商品を作って、広告して。。。売れて、代金を回収して、少しずつ初期投資分を取り戻していく。

 

必ず資金が先に出て、後からそれを取り戻していく構図なのです。そういった意味で経営とは構造的に「投資」といえます。

 

無論、事業には社会的に大いに意義があり、お金の面だけ捉えるべきではありませんが、こと投資の視点で考えれば、事業プランとはその初期投資の凹み分を取り返した上で儲けをもたらすための作戦を描いたものといえます。つまり、リターンを生むアイディアです。

 

最初から儲かる事業がどこかに転がっている訳では無いので、アイディアとして煮込んでいくことで初めてリターンを生むレベルにまで仕上がっていく訳です。

 

ここでいう「煮込む」とは、必要な数のお客様がこちらの望む価格でお財布を開いてくれるであろう見通しです。過去の成功例・失敗例、市況や競合他者の動向、技術の成熟度などに鑑みて、目標レベルの収益性を達成できる水準にあるかどうかということです。

 

この煮込む過程でとても役に立つ考え方があります。それが“回収期間”です。

 

“回収期間”とは初期投資に要した資金をどのくらいの期間で回収するかという考え方です。“回収期間”は、例えば工場建設の投資は7年で回収する、店舗建設の投資は3年で回収する、といった自社独自の予定です。

 

これには投資の種類によって経験的に概ね妥当と考えられる期間があります。あるいは各個別の固定資産単位に税法で定められている減価償却の法定耐用年数も一つの目安といえます。

 

“回収期間”とはいわば投資回収を見込んだ複数年での損益計算ということです。経営が投資であるという視点で考えれば、投資が回収できてからの利益が本当のリターンということです。

 

そう考えれば“回収期間”とは、この投資がいつから本当のリターンを生み出し始めるかという、とても大切で楽しみな未来時点を現しています。

 

決算は法律上1年を超えて集計することはできないので、決算書には“回収期間”といった複数年で考えるようなマネジメント上の数値は出てきません。

 

例え単年で黒字になり、借入返済を含めて資金的に滞りが無かったとしても、予定した“回収期間”を達成する利益水準に達しているかどうか、決算書では分かりません。

 

銀行は返済が滞らなければ良い訳ですから、それ以上の煮込みを要求しません。しかし、経営者は違います。投資回収不能リスクを負う訳ですから、それに見合ったリターンを得ようと考えるべきです。

 

これは強欲などではありません。経営者として必要な思考であり、この煮込み過程での創意工夫こそが高収益の源泉なのです。

 

事業を10年やって借入も予定どおり返済したけど、結局手元の資金は増えなかった。。。となれば、これまで何をやってきたのかと感じるのではないでしょうか。

 

役員報酬や従業員給与を支払えたのだから、雇用と言う意味で良かったと考えるかもしれませんが、それは必要で妥当な経費であり、経営に成長発展をもたらすリターンの考え方ではありません。

 

投資回収を投資プロジェクト単位として『複数年』で捉え、納得できるリターンを実現する利益水準を把握し、その達成指標として“回収期間”を意識することが大切です。

 

これは、利益創出に対する工夫努力の目標設定、自らに対する覚悟の宣言でもあります。

 

初期投資はゲームへの参戦料として消えてなくなるのではなくて、参戦後にご自身で利益から回収していかなければならないということを心に留めておくことが肝要です。

 

御社の投資は高収益を生み出す事業アイディアへと煮込まれていますか?

工夫努力の指標である投資プロジェクトの“回収期間”は何年ですか?

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