【第535話】企業売却価額から逆算するB/Sマネジメント
「最近、銀行や行政から「後継者はいるか」という質問を受けるんだけど、何でなの?」と社長。
銀行借入に伴う事業計画書や、補助金の申請書といった場面で、「後継者の有無」という欄を頻繁に見かけるようになりました。
前述の社長は、社長歴の長い方。昔はそんなに聞かれなかったような…ということで、ふとした会話の中でご質問がありました。
では…ということで「もし自社を売るとなった場合、御社にはどんな価値が付けられるでしょうか?」とお聞きしました。
当然のことならが、企業譲渡というのは売り手と買い手の交渉事ですから、そこに正しい価格といったもは存在しないものの、ある程度の目安、算出法が確立されています。
まず、最もシンプルに考えれば、企業価値はその企業にどれだけ資産(おカネ)があるか…ということになります。
これを算出するならば、企業価値は「企業価値=純資産額-負債額」ということになります。
この式は、資本金を含めてこれまでに稼いだ純資産分から、これから返さなければならない負債分を引いたものが企業価値ということです。
もう少し詳しく見ていけば、純資産(≒自己資本)よりも負債の方が大きい場合、企業価値はマイナスということです。
これはつまり、企業を売却しようとしても、企業価値がマイナスですからおカネを払って買ってくれる引き受け手はいない…ということになります。
ここから、企業価値をプラスにするための貸借対照表上の姿が見えてきます。それは「自己資本比率50%以上」ということです。
自己資本比率がそんなに高い企業なんてそうないでしょ?大抵は20%くらいなんじゃないの?といったお声が聞こえてきそうです。
当然のことながら、成長過程というのは借金先行になりがちです。経済が成長しているのに、市場が拡大しているのに、競合がどんどん投資しているのに…、こうした状況に遅れを取らないためには借金をしてでも、その機会に追従していくことが大切です。
ただし、いずれどこかの時点までに企業価値をプラスにしようと考えるならば、自己資本比率を50%以上にしなければならない…という計画が必要になってくることは明らかです。
企業の真の成長過程というのは、稼いだおカネを再投資することによって拡大再生産を進めていくものです。
しかし、稼いだおカネの再投資を待っていたのでは折角の事業機会を逃してしまう。そうした場面で借入は有効な手段となり得ます。
例えば、住宅ローンを考えれば分かりやすいかもしれません。おカネを貯めてからマイホームを買おうとしたならば、買える頃にはもう遅い…なんてことになりかねません。そしてもう一つの示唆は、住宅ローンは生きているから返せる…ということです。
これを企業に当てはめるならば、企業が継続している間に返さなければならないということです。これを逆から見れば、借金の返済が終わるまで、企業は事業を続けなければならないということでもあります。
思い出していただくと、銀行は、後継者の有無を聞いていますが、実のところ事業を続けて、その借金を引き継いでくれる人がいるかどうか…を確認しています。
社長は、時世柄、大借金をして“売上”拡大を目指すことも大切な仕事です。ですが、事業継承が借金継承にならないためにも、どこかの時点で、そうした借金による拡大路線から、企業価値、“財務”基盤に意識を向けることが必要になってきます。
“売上”拡大だけが成長、社長の仕事と思っていませんか?
もうそろそろ“財務”基盤、企業価値を高めることに舵を切りませんか?