【第536話】“こだわり”とは商品の仕上がりである。
「この商品は、地元素材にこだわって作りました」と社長。地場産品を使ってとある缶詰を完成させました。
この新商品プレゼンでは、この地場産品の歴史、地域の人がこの素材をどれだけ愛してきたか、この素材の特徴…が力強く説明されました。
お時間の制限もあって、新商品プレゼンは終わりました。プレゼンに望まれた若き社長は清々しいお顔ですが、聞いていた側には何とも言えない重い空気が流れています。
誰が言うのか…という中、集まる視線にお応えして質問させていただきました。
このプレゼンは、新商品の缶詰のことではなくて、その素材のお話になってしまっています。その素晴らしい素材を活かして、どんな缶詰を作ろうとしたのか…その意志についてもう少しご説明いただけませんか?
みなさま、この後がどうなったかはご想像のとおりです。もう一度、この地元素材の説明が延々と…。
モノづくりにおける付加価値とは、設計製造にあります。
どんな商品を作ろうとするのかという設計工程、そしてその設計を商品として具体化する製造工程です。
ですから当然のことながら、良い素材を使ったからといって良い商品ができあがる訳ではありません。
こうした商品設計、それを具体化する商品製造があって、商品ができあがるのであって、そうであるならば、商品の仕上がりこそ“こだわり”であるはずのことです。
食品の場合、その商品の仕上がりに対して素材の影響は大きいことから、素材の良さで商品の仕上がりを説明しようとしてしまうことが往々にして起こります。
ですが、良く考えていただきたいのですが、御社が生み出そうとしている付加価値とは、そうした良い素材を用いてもっと良い商品に転換しているという、この転換プロセスにこそあるのです。
これは工業製品で例えると分かりやすいことです。良い鋼材を使っているからといって良い自動車が作れるでしょうか…ということです。
材料はあくまでも材料であり、目指す自動車の仕上がりから求められるスペックの材料が用いられるだけです。
もし御社の新商品の仕上がり上のウリが、素材、材料であったならば、その商品というのはその材料の転売に過ぎないということです。
そうだとすると、その商売というのは、転売屋、値入、利ザヤ…といったことになってしまいます。
折角、苦労してモノを作っています。そうであれば、その作る過程を付加価値に転換しなければならないことはいうまでもないことでしょう。
具体的には、御社が目指した新商品の仕上がり感があって、その仕上がりを実現するためにそうした素材が選ばれている…という主従関係でなければならないはずです。
そうした仕上がり感を考えることこそ商品設計であり、その意志から逆算されて素材は選ばれるべきことです。
素材に便乗して商売しようとするならば、それは製造業としてではなく流通業として取り組めば良いことです。
良い商品をお手頃な価格でお客様にお届けする…、これも立派な商売です。
大切なことなので総括すれば、モノづくりの付加価値は設計製造です。素材に手を加えて商品として仕上げ、その仕上がり感こそが売り物であるということをお忘れなく。
商品開発をあきらめて素材に便乗しようとしてしまっていませんか?
商品の仕上がりにこだわっていますか?