【第489話】独自の成長を歩む資金調達の絶対条件
「あと〇年で自己資本比率80%を目指す計画にしました」と社長。こちらの企業、実際、その目標を達成し、現在はほぼ無借金で経営をされています。
経営者にとって事業の実体面のマネジメントのみならず、資金調達にどう対応していくか、資金面のマネジメントの両輪をなす大切な仕事です。
このことから優れた経営者の経営計画には実体面のみならず、こうした金融面での目標が書かれているものです。
一般論的に考えるならば、経営ファイナンス論の世界では、モジリアーニ・ミラー理論として、「税金がない場合、企業価値は負債と株主資本の構成比によらない」とされています。
つまり、理論的に考えて資金調達の方法は企業価値に“は”影響しない…と。
しかし実務的な感覚と照らしていかがでしょうか? 自己資本100%の無借金経営と、借入金依存度が高い経営とで、何が違うのでしょうか?
事実、前述の社長はご自身で考えて「当面、自己資本比率を高める舵取りをする」ということで具体的な数字と達成時期を目標として定められているということです。
こうしたことから見ても、資金調達への対応は、企業価値といったものとは別に、特別な意味を持っていることは明らかでしょう。
ちなみに、自己資本比率とは「総資産に占める自己資本の割合」で、経営の安全性や健全性の指標として用いられています。
なぜ自己資本比率が高いと経営が「安全・健全」と見なされるかといえば、自己資本比率が高いということは、返済しなければならない負債の割合が少ないことから健全という訳です。あるいは、負債の返済に窮する可能性が低いという意味で安全だということです。
難しいことを言っているのではありません。今、自分のおカネがあっても、いずれ返済が必要な借金があったならば、その分を差し引いて考えておくような意識が大切だということです。
確かに、経営者の仕事とは、調達した資金を事業として運用することです。こう考えれば、前述のMM理論のとおり、最適な資本構成、適切な自己資本比率…といったことは考える必要のないことかもしれません。
ところが事実、資本構成は、経営に異なる色あいをもたらします。
前号のコラムでは、取り組む事業の「リスク」の程度に応じて、資金調達を考えましょうとお伝えしました。
もう一つの大切なのが、経営の独立自尊度です。誰のおカネで経営しているのか…という視点です。
借入金といった資金調達は別名「他人資本」と呼ばれます。この名前が示すとおり、借入金割合は、ある意味、経営への“他人”の関与度なのです。
ほとんどの中小企業の場合、株主は自分たちですから、自己資本比率が高いということの意味は、借入返済のために誇りや筋を曲げなくてよい程度、自分たちが自由に決められる経営空間の広さ、浮き沈みある経営環境下でじっくりと従業員を育てられる時間的猶予…といったこと、経営者としての心意気、スピリッツなのです。
できることならそうしたい…というご意見が聞こえてきそうです。ですから、それを実現していくための手順をいつもお伝えしています。
それは、「始めは例え小さくても“収益性”の高い事業を構築する」ことです。真の成長とは「高さを伴う広さ」です。高くなるから広くなる…が大切です。
借金というカネの力で、ただ経営をベタっと広げたならば、それは単なる膨張であって真の成長ではありません。
借入金で事業拡大を目指すならば、今以上に収益性を高めること、今以上に付加価値ある商品サービスを開発することが絶対条件です。
自己資本比率を経営目標に掲げていますか?
御社の資本構成は経営スピリッツを体現していますか?