【第488話】経営者の宿命、おカネのコストとの付き合い方

「今度の新事業の設備投資ですが、メインバンクも融資できると言っているので、ほとんどを借入で賄おうと思っているのですが、どう思われますか」と社長。

 

大抵の場合、経営者は手元に多くの資金を置いておきたいものです。それは当然です。経営は、資金が途絶すれば倒産です。赤字でも手元資金があれば事業を継続できる訳です。

 

ですから、金利も高くないし、まずは借りておいて設備投資を行って、もし事業収益からの返済が足りなくなったら手元資金から返済…と、キャッシュポジションを優先しがちです。

 

ここで、経営者として大切な感覚が、借入金に対する“金利”です。経営の世界で、金利は借入金に対する「コスト」だということです。

 

おカネに対するコスト…これはとても不思議な感覚です。

 

つまり、経営者は資金を調達し、それを事業として運用することで、こうしたコスト以上の利益を生み出すことを期待されています。

 

では、こうした新事業の開発投資、事業拡大の設備投資…といった際、その資金調達はどのように対応すればよいのでしょうか?

 

その前に、一般論を整理しておきましょう。投資資金の調達には大きく二つの方法があります。それは借入と株主資本です。

 

ここで借入は、返済する約束で融資を受けますので、貸し手はリスクが低いためおカネのコスト(金利)はそれほど高くありません。

 

一方、株主資本は、株主からの出資金やこれまでの利益を内部留保して貯めたおカネのことです。これは、運用原資であり返済する義務はありませんが、返すことができないかもしれないリスクがあるため、おカネのコスト(期待利益率)は高くなります。

 

このように、おカネのコストも安く、金利支払いは損金として節税効果もあることから、どうしても、資金調達は借入に頼りがちです。そして、「借入できるのが経営者の器だ」といった実しやかな噂話がはびこります。

 

確かに「借りられる」は信用の現れではあります。しかし、借入は返済を前提とした資金調達であり、借入融資の銀行プレゼンで大切なのは、しっかりと計画どおりに返済できることの説明です。ですから、銀行に対する借入申込のプレゼンで未経験の新事業、リスクある挑戦を応援してほしい…などと話さないことです。

 

一方、株主資本を預かっていることに対してもコストが発生します。それが、出資した金額に対する期待収益率です。出資した金額が平均的にどの程度増えるのか…ということです。

 

そして、この株主資本のコストである期待収益率は、リスクマネーであるという性格から、借入の金利よりもとても高くなります。例えば、東証株価指数TOPIXから試算すると8%弱といった水準です。

 

オーナー社長であれば、自己資本はご自身で出したおカネですから、それが減りさえしなければ…と、期待収益率をあまりコストだと意識しないかもしれません。しかし、上場レベルの企業で、資本コストは8%近い水準、それくらい稼ぎ出して平均だということを理解しておくことが大切です。

 

少し話を整理すれば、事業リスクが低いのであれば借入で、事業リスクが高いのであれば株主資本で…というのがセオリーということです。

 

こうした冷静な判断を難しくしているのは時間軸です。株主資本は「先に稼いで後から使う」という自然な流れに対して、借入は「先に使って後から返す」と順番が逆です。

 

大きな工場を持ちたい、立派な店舗を構えたい…どうしても外見的な夢を見がちです。しかし経営者にとって本物の夢とは、そうした物理的なものではなく中身、高い収益性です。

 

おカネで売上は買えても利益は買えません。ですから、経営者の才覚は収益性で測られるのです。規模を大きくするよりも、まずは小さくとも収益性を高めてみせるのが賢い成長の道だということです。

 

本気でリスクある事業に挑戦しようとするのであれば、まずは規模よりも収益率を出せること、税引き後利益で資金を貯めることができる実力を身に着けることが大切です。

 

感情的にならず冷静にリスク見合いで資金調達を考えていますか?

夢をじっくりと実現しようとせず先に買ってしまおうとしていませんか?

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