【第470話】新事業の成功に損得勘定よりも大切なこと
「新商品がビックリするくらい売れなくて…」と社長。聞けば、ある程度は覚悟していたとのことですが、渾身の新商品、あまりにも世の中からの反応が薄くて、もう苦笑いとのこと。
こうした状況を忌憚なく正直にお話いただく社長というのは稀です。多くの場合、例え少ししか売れていなかったとしても「売れている」と言うモノです。
こうした「売れてる」、「売れてない」というのは、認識の問題ですから、何をもって売れてる売れてない…というかは、ある意味で自由なことです。
例えば、商品が絵画のような場合、多くの作品のうち、いくつかが売れれば「売れてる」でしょう。あるいは、まだ売れてない作品であっても、これから売れる可能性がある限り「売れてない」と決定づけるのはまだ早いと言えたりするからです。
こうして考えれば、売れてる売れてない…の認識は、商品サービスの有効期間との関係で認識されることが分かります。
実際、現在は人気のチョコレート菓子「ブラックサンダー」。発売開始から10年は全く売れず、一旦、終売したものの、一部の顧客層から再販を望む声があり、大学生協という販売チャネルを見出したことで、ロングラン大ヒット商品に育っていたりします。
では、事業経営の場合、どのような期間で売れてる売れてない…を考えていかなければならないかと言えば、そこには現実的で切実な制約があります。
ここで、何が経営を行き詰まらせるのかといえば資金ショートです。ですから、経営を存続させていくためには、資金的に行き詰まらないようにするのが肝心ということになります。
そういう意味で、資金的余裕、いつでも資金調達できるような社長力が、挑戦を継続できるかどうかの期間を決定づけるということです。
前述の社長も、これまでの本業が堅調で資金的に余裕があるからこそ、「ビックリするくらい売れない」と苦笑いしていられるのです。
新事業、新商品を続けていくためには、資金ショートの前に、資金を均衡以上に持ち込む必要があります。
これを“採算”と呼び、“儲ける”といったこととは違う意味で、経営の生命線です。
昨今、「儲からなくても良い」という若い経営者にお会いする機会が増えました。おカネ目当てではない経営、使命感をもって経営にあたられている姿勢は、とても素晴らしいものと思います。
一方、経営者である以上、採算を創らない限り、その想いを存続させることはできないという事実にも向き合う必要があります。
ではなぜ「儲からなくても良い」といった意識の未来ある若き経営者が増えているのかといえば、新事業を企画する立場から、理解しておく必要があることです。
それは、ビジネス、商売、経営が実体的から金融的になってきているからです。
ここで、実体的な経営とは、新たな商品サービスを“お客様”のために考えることで仕事を創り、そこに“従業員”の雇用を生むことです。
また、金融的な経営とは、株主からの投資に応えることです。
こうした、お客様、従業員、株主といったそれぞれの立場はステークホルダーと呼ばれます。
ステークホルダーとは、「利害関係者」という意味です。経営は利害関係者とのバランスを保つことでもあり、ステークホルダーの誰を優先するのかが経営スタイルに現れます。
世の中のためにやっている、近視眼的にリターン最大化、損得勘定でやっているのではない…、若き経営者はこう言いたいのです。
しかし、その素晴らしい意志を続けていくためにはおカネに覚悟を決めて、社長として採算創りに取り組んでいく意識が不可欠です。そのことを無視しては経営者足り得ないのです。
経営は“存続”が大切と考えていますか?
そのためにおカネに覚悟して“採算”を計画していますか?