【第433話】投資上手な経営者のマネーサイエンス

「〇〇業界ってどうなの?」と親しくさせていただいている社長。聞けばその業界の会社を継承するかどうかを検討中とのことで、諸々の事前調査に意欲的です。

 

こちらの社長、とても数字に強く、経営方針の変更にあたっても、ビジネスモデルの何をどう変えていくのか…といったことについて、とてもハッキリと説明されます。

 

それは単に売上利益といった計画上の数字を言っているということではなくて、事業構造の変化を数字的に説明することができるという意味です。

 

ご自身のビジネスを数字的に説明できる…。これは謙虚、堅実、実直な経営者に共通する優れた能力です。

 

当然のことながら、経営は数字だけで測りきれるものではありません。数字だけでは測りきれない本質的な存在価値があることについて全く異論はありません。

 

実際、目に見えない資産、インタンジブルアセット、ブランド価値、技術力、人的資本価値…様々に言葉を変えながら、そうしたことの価値を測定しようとするチャレンジが行われてきました。

 

しかし、現時点でそうした価値の測定結果として正と認識されている指標は一つしかありません。

 

それは、“株価”です。これが正しいか正しくないかは別として、上場企業であれば株価をベースに企業価値が算定されます。企業のM&Aでもこうした企業価値をベースに取引金額の交渉が行われます。

 

自己資本が株主資本と呼ばれるようになって久しい今、上場企業の経営者でなくても、こうした資本的視点から経営を理解しておくことは必須の経営者リテラシーとなりました。

 

株価の評価はとても簡単です。株主資本を発行済み株式数で割れば、実績として一株あたりの株価を算出することができます。

 

ここで株価評価にもう一工夫を加えるならば、この企業が将来的に稼ぎ出す利益が株主資本の増加をもたらすため、その増加分を加味することです。つまり、株価はこれまでの実績に加えて、これからの利益…が織り込まれることになります。

 

ここで経営者には、企業価値向上策に二つの道が訪れます。

 

それは、足元の事業でしっかりと稼いで利益を積み上げること。もう一つは将来的な稼ぎを語って株価を上げることです。

 

資本市場で株式会社の経営者である以上、これからの経営者にはこれら二つの道をバランスよく歩んでいく意識が欠かせません。

 

ただし、経営計画のプレゼンが過度な株価吊り上げを意図したものであったならば、それはとても不健全なことです。

 

ここで投資上手とは、足元の事業強化への投資と将来的な稼ぎへの投資を上手くやっている経営者ということです。

 

昨今、企業は上場せずとも、企業を売却したりすることで、自社株を現金化することができる時代になりました。このため、企業の売買を仲介するビジネスが盛んです。

 

あるいは、金融機関の投資ファンドのみならず、個人の資金を預かって企業の売買で運用するプライベートエクイティファンドなども増えています。

 

こうした背景には、経営の稼ぎ方が変わってきたことがあります。経済の成熟化で、モノやサービスを提供して実体市場から稼ぎ続けることが難しくなってきたため、将来的な成長性という幻想を掲げて資本市場から稼ごうとする経営者が増えてきているということです。

 

面白いのは、こうした資本市場寄りの経営に限って、社会性を錦の御旗に掲げがちなことです。

 

経営において社会性とは、財やサービスの提供、付加価値創出で社会に貢献していくことです。資本市場対応も欠かせない経営リテラシーになってきましたが、だからこそ実体市場に軸足を置いた投資意識が大切です。

 

実体市場で社会的役割を果たそうとしていますか?

商品サービスのみならず株価視点で経営を語れますか?

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