【第418話】優れた成長戦略は「縦の売上」に「横の売上」を織り込む
「新商品、工夫したつもりでしたが、足りていなかったということが分かりました」と新社長。こちらの新社長、とある成長戦略のプロジェクトリーダーだった方なのですが、その功績から、後継の社長にご就任されました。そこで、今後…についてご相談くださいました。
こちらの新商品、確かに優れた着眼で、商品開発の方向性としては間違っていないといえるものでした。ただし…ということでお伝えしたことがあります。
それは、「まだ“横”に留まっている」ということです。ここで“横”とは…ということなのですが、売上には「縦の売上」と「横の売上」があります。
ちなみに、「縦の売上」とは、製造的な売上のことです。仕入れた材料に独自の加工や工夫を加えることで実現される売上のことです。
仕入れた材料に工夫を加えて、価値レベルを上側に持ち上げることで売上を目指そうということですから“縦”といえることです。
そして、縦の売上が生み出す利益が“付加価値”です。このため、縦の売上を目指す成長戦略は、創意工夫の程度、質的に収益性を高めていこうとするものです。
また「横の売上」とは、流通的な売上のことです。仕入れたモノをお客様に届けることで実現される売上のことです。
仕入れた商品はそのままに、お客様にお届けすることで売上を目指そうということですから“横”という訳です。
こうした横の売上が生み出す利益とは“値入”ということです。いわば口銭的な性質を帯びており、横の売上を目指す成長戦略は、量的に収益性を高めていこうとするものです。
そしてなぜ成長戦略において「縦の売上」を目指す必要があるのかという点が大切です。その理由はとても単純です。経営の成長発展に欠かせない利益を生み出すためです。
縦の売上の収益性は創意工夫ですから、その工夫次第で高収益を目指すことができます。一方、横の売上は値入率以上を目指すことはできません。ですから、最初から収益性に上限を抱えた売上ということです。
売上の横展開とは、いわば「取扱商品、増やしました」であり、売上に貢献したとしても必ずしも利益、収益性の向上に結び付かず、忙しくなるだけでもっと儲からなくなることもあり得ます。
こうしたことを踏まえて、先ほどの企業の新商品、商品開発の方向性としては間違っていないのですが、材料への手の加え方が貧しく、縦と呼ぶには及ばず横止まり…でした。
今のままでは売れたとしても収益性の向上には寄与せず、売れて忙しくなったとしても儲からないということです。
大切なところなので補足してお伝えすれば、例え仕入れた材料に何らかの加工をしていたとしても、その加工への創意工夫が貧しく、技術能力として一般レベルであったならば、それは残念ながら既存技術の流通であり横の売上でしかありません。
成長戦略で縦の売上と横の売上を上手に織り込んでいく必要があるとお伝えしているのにはもちろん理由があります。
その理由とは、経営の存続発展にかかわるリスク尺度です。理解しておきたいのは、横展開は、動きさえすれば、あるいは価格を下げれば、収益性をさておけば、着実な売上が期待できます。
一方、縦展開は創意工夫次第で高い収益性が期待できる反面、商品開発リスク、新たな設備投資、売れ始めるまでの時間…売上がリスク的です。
成長発展を描く際、大切なのは売上よりも利益です。経営における収益性体質の改善がキモなのです。ここで収益性という言葉に嫌悪感があるならば努力が報われる生産性とお考えください。
どういった構造で利益を生む事業モデルを目指しているのか。ここにリスクテイクへのスピリッツが現れます。
成長戦略が“横”だけになってしまっていませんか?
リスクを取って“縦”を目指しませんか?