【第356話】成長発展に不可欠な専門性の発揮法
「いずれ〇〇分野で総合メーカーといえるような企業になっていきたいと考えておりまして…」と社長の見つめる未来は挑戦的です。
ここで「素晴らしい目標と思いますが、一点よろしいでしょうか…」と、気になった点をお伝えしました。
それは何かといえば、“総合”という部分です。もちろん、新製品を次々と世に放ち、製品アイテム、製品ラインを充実させていくことは素晴らしいことです。
ただし、目指す姿を“総合”と考えてしまうことで、成長発展にブレーキが掛かってしまうことが起こります。
まず、最初のブレーキは、△△機器、××計測器、□□装置の総合メーカーといった、総合の範囲を製品分野で考えてしまうことで、結果、総合が足かせとなり逆に自らの成長範囲にブレーキを掛けてしまうからです。
自分たち側からすれば、こういった範囲まで〇〇分野での取り扱いが総合的になってきた…という意味で間違いない表現であることに異論はありません。
ただし、それは誰から見て“総合”なのかということです。お客様側から見れば、どうでしょうか。その〇〇分野のメーカーにしか見えないはずです。それを“総合”と謳ったならば、そのミスマッチによって販売にブレーキが掛かることは容易に想像がつくことです。
これらは“総合”よりもむしろ“専門”と呼ぶべきことです。実のところ、自社を“総合”と称するか、それとも“専門”と自負するのかの分かれ目には、経営者の深層的な意識が現れています。
もう少しこのことを掘り下げて考えるならば、商売をお客様視点から見れば、“総合”を目指すべきか、それとも“専門”を目指すべきかが見えてきます。
その前に、世の中の商売をザックリと分類すれば、商社、卸売、小売といった「売る商売」と、製造、建設、素材などの「作る商売」に分けることができます。
過去を振り返ってみれば「売る商売」というのは、“総合”と“専門”が入れ代わり立ち代わりながら発展してきた歴史を見て取れます。
これは「アコーディオン理論」として知られるもので、品揃え、商品ラインが広がったり縮んだりすることでアコーディオンに例えられています。
一方、「作る商売」の過去を振り返ってみれば、それは“専門性”の歴史であることが分かります。
確かに、「作る商売」にあっても、家電メーカーが住宅に進出したり、自動車メーカーが街づくりに進出したりといったことがあります。
しかし、これらはあくまでも自社能力の応用展開であって、決して単に取り扱い商品、商材を増やしたというような「売る商売」のそれとは意味が違っていることに留意が必要です。
もう少し補足すれば、「売る商売」では、“総合”も“専門”も常にあり得る一方で、「作る商売」はいつの時代にあっても“専門”の歴史です。
それは当然のことです。「売る商売」は比較的容易に何でも取り扱いできますが、「作る商売」は得意な範囲に限りがあるからです。
こういった背景を踏まえて、「作る商売」の社長が“総合”を謳ったならばどうなるかといえば、それは、「作る商売」の専門性を捨てて、「売る商売」に転じて、何でも売れるモノで総合的に身を立てていくつもりです…、というメッセージになってしまうということです。
重要な点は、本当の意味で“専門”とは、自社の能力起点で定義すべきものであって、取り扱い商品の範囲で語るべきものではないということです。
専門性とは取り扱っている商品サービスの範囲のことではありません。これまでに探求してきた能力をベースとしたものです。
このため、製品分野ではなく能力起点で商売の専門性を定義することで、製品分野にとらわれない豊かな成長発展の道を歩み始めることができるのです。
応用の核となる能力ベースで専門性を語っていますか?
間違って、取り扱い商品の範囲を専門と言ってしまっていませんか?