【第346話】新事業でゼロからにしないための核の育て方
「今回の新事業検討では、今の事業を辞めることも視野に新しいカタチに生まれ変わっていきたいと考えていまして…」とこのプロジェクトに賭ける社長の本気が伝わります。
当然のことながら、事業経歴が長くなってくると、お客様の求めるところ、いわゆる市場も変化していくため、それに対応していかなければなりません。
そして、そういった本業的な意味に加えて、業界の顔ともなっていけば、様々な利害関係者の期待を背負っていくことにもなりますし、慣習やしがらみといった面倒なことも溜まっていくため、その調整が大変になってくるものです。
そんな状況から、今の状況をガラガラポンと全てを刷新していきたいと考えるのも無理はありません。
もちろん、企業の存続発展に変革は必要不可欠ですから、経営者がそういった生まれ変わるほどの変革意識をお持ちであることは、とても大切なことです。
一方で、成長発展とは、新たな仕事という面倒を背負う量を増やしていくことでもあり、それを背負って立つ覚悟と気概が試されます。
今というのはある意味で均衡点であって、いろいろな力がつり合っています。このため、現状であるこの均衡点を変えようとして、一生懸命、押したり引っ張ったりするのですが、なかなか思うような変化に至らずに力尽きていく…ということが起こりがちです。
ここで力が尽きてしまうのは、今の均衡点、今のイヤなところから抜け出そうとして押したり引いたりすることに起因します。
均衡点というのは、良くも悪くもとても重いのです。様々な力が働いて今の均衡点があるのですから、それを動かそうとすればなかなかに力仕事だということが分かります。
一方で、その均衡点を動かすためには、押したり引いたり…だけではないということも分かります。それは、その均衡を作っている構造を変えることです。
このため、こういった場面では、改善派よりも改革派が力を発揮します。
ここで改善派とは、今を前提とした思考パターン、改革派とは今を前提としない思考パターンであり、それぞれに力を発揮しやすい場面があります。
経営の刷新、新事業の構築…といった挑戦的な場面において改善派よりも改革派が力を発揮できるのには理由があります。
それは、「10年後も今の仕事があるか…」という答えなど誰にも分からない質問に対して、どう答えるかの違いとなって現れます。
改善派は今を改善することで10年後にも今の仕事があると“内側”から考えます。つまり、もっと強く押したり引いたりしますから…といっています。
反対に、改革派は今のお客様が10年後にもいるとは思えないと“外側”から考えます。よって、力の入れ方を変えるのではなくて、今までとは違うところへ力を入れようと考えます。
ここで、改善派と改革派の軋轢が生まれることは容易に想像できます。改善派は「こんなに頑張ってるのに」と主張するのに対して、改革派は「このままではダメだ」というからです。
このように、議論がかみ合わないのは、議論の論点が異なっているためですが、実は新事業を展開していくにあたり双方の思考パターンを活かすための順番があります。
改革派は新事業検討の初期段階、次にどこに力をいれていくべきかを考えるのに力を発揮します。それは、新たな仕事を創るのに、今の仕事を無くせないか…といった自己矛盾に耐え得る思考を持っているからです。続いて、改善派は力の入れ所が分かりさえすれば力を発揮します。
ただし、新事業展開にあたって最も重要な課題は、例えゼロベースの新事業であっても核となる強みがなければ勝算は低く、その核を良く知っているのは改善派だということです。
改革派は、新たな力の入れ所の見極めにあたってそのことについてしっかりと意識を持っておかないと、本当にゼロから新事業を始めることになりかねません。
新事業展開を改革派意識で検討していますか?
ただし、改善派の知る核を起点にしていますか?