【第333話】新事業展開で守るべき本業と副業の境界線
「読めない時代になってきたので、〇〇事業に進出しようと思うのですが…」と仰る社長の声には、不安と自信が混じります。
当然のことながら、事業というのは、例え外からは同じように見えたとしても、その中身は常に進化しており、ほぼ10年単位ですっかりと生まれ変わっていくようなものです。
このため、経営者にとって、新事業や多角化といったことというのは、ある意味で日常業務でもあります。常に新商品を創って既存のお客様への販売努力を続けてきましたし、既存のお客様がお求めになるであろう新商品の取り扱いを増やしてきたりしています。
ただし、そんな経営者にあっても新事業とおののく分野があります。それは商品もお客様も新しい場合です。
永く経営者をやっていれば、望もうと望まざるといずれこの瞬間がやってくるものです。この瞬間、いかに固まらずに動き続けられるのか…、経営者の胆力が試されます。
この際、最も大切なことは“本業”を深堀りしながら拡大する意識を持つことです。着実に儲かりそうだから、利回りが期待できそうだからと“副業”に手を出してしまうことは避けなければなりません。
ここで、そもそも論として本業と副業の違い、その境界線とは何なのかといえば、実に明確な一線が存在します。
それは、本業が“使命”で動くのに対して、副業は“カネ”で動くという経営意識の違いです。
なぜ、副業に走ることを避けなければならないのかといえば、その答えは簡単です。「付加価値を創る」ことを諦め、「おカネを集める」ことに走ってしまうからです。
本業もいずれ経営が数字である以上、おカネ上の採算に乗せることは必要です。しかしこれは、儲かりそうなことでおカネを集めるというよりは、むしろ儲かりそうもないことを儲かるようにする創意工夫が根底にあるということです。
これはある意味、新しい事業を創るというのは、儲かりそうな事業に参加しますと手を挙げるようなこととは違うということです。
一旦、副業に走ってしまえば、そのテーマでカネが集まらなくなれば次のテーマ…という単発の場当たり的な未来が待っています。
これは、晩年に際して、「私はこんな事業を創った」か、あるいは「こんなテーマでカネを集めた」かの違いとなって人格をも形成します。
事業経営とは存続発展を賭けた戦いであり、本業を続けていくためにもがき続けるようなものです。
この苦しさから逃れようとして副業に走り、新事業が「副業のカネ稼ぎ」であることをカモフラージュしようとすると必ず起こることがあります。それは、「異様に高い使命感」が掲げられることです。
例えば、「世界を笑顔に」といった使命感であれば、どんなビジネスでも使命に適ってしまうということです。高すぎる使命感は自社のビジネスは何でもいいと言っているに等しく、逆から見れば「無いに等しい」のです。
本当に強い経営を永く続けようとするならば、地に足の着いた使命感が必要であることはいうまでもありません。そのことが試されています。
使命感が地に足の着いたものであるためには、お客様側(マーケット側)よりも培ってきた自社の能力側(プロダクト側)に軸足を置くことが大切です。
改めてお伝えすれば、どんなに苦しくても、カタチこそ変われど何としてでも本業の道を突き進もうとすることが大切です。副業に走って、経営者としての晩節をカラッポにしてしまうのは、残念なことです。
その新事業は本業ですか?
その境界線、使命感は地に足が着いていますか?