【第330話】波に乗るか飲まれるかを分かつ社長の判断軸

「実は…、リコール出したんです」と、とあるメーカーの経営者。聞けば、技術的に考えて不具合につながる可能性は限りなく低いものでしたが、そのように判断されたとのこと。

 

当然のことながら、リコールを出せば、既に販売した製品の無償修理や取り換えに伴って追加的なコスト負担が生じますし、一時的にお客様にご迷惑をお掛けすることにもなります。

 

こちらの企業は、事情を説明しお客様に頭を下げてリコールに対応した結果、「そんなことでリコール出すの?」と、むしろ信頼を深められています。

 

こういったお話を決して美談としてお伝えしているのではありません。第三者的に聞いていると、当然のことでしょ…と思われるかもしれませんが、ご自身が当事者であったならば、というところに想いを馳せていただきたいのです。

 

大抵の場合、物事は白か黒かの途中にあって、だからこそ判断には苦しみが伴います。そんな中にあって、自社に不利な判断をするということは勇気のいることです。

 

経営者にとっての勇気とは、正しいと考えることについて、例え自社が不利になろうとも判断を下し、判断した以上、イヤイヤながら…を引きずることなく、淡々と行動に移していくことができる思想的な強さといえるでしょう。

 

ここで、勇気は正しさと一対であるが故に、不利な状況になった時、その経営者が何を“正しい”と考えているのかということの違い、思想的な差が如実にあぶり出されます。

 

平時において、「変化はチャンス」などと言うのはた易いことです。反対に状況が不利になるような変化にどう臨んでいくか。理想を目指しつつ、日々の望まぬ変化に粛々と対応していくのが経営者の日常といえるでしょう。

 

なぜここで、“正しい”といったことをあえてお伝えしているかといえば、もちろん理由があります。それは、経営者として大切な「判断力」に関わるものだからです。“正しい”という判断軸があるから、迷いながらも決め続けれるのです。

 

実のところ、昨今の誰も望まぬような社会変化に対しても、決められる社長はもうどんどんと動いています。望まぬ変化であったとしても、自らの判断軸で次の荒波に向かって漕ぎ出しており、自分の意志で漕ぎ出すことで荒波であっても乗れる可能性は高くなります。

 

こういった判断というのは、まだ未来が見えず情報量が少ない中で決めていくのですから、とても難しいことです。

 

さながら、こういった経営者は、あたかも未来が見えているかのようですが、その種明かしは、先ほどからお伝えしている自らの正しさという判断軸の有無なのです。

 

自らの“正しい”を持たない経営者は、決められない、様子を見て、上手くいきそうになってきたら…と、判断軸を外部に依存するために間違いますし遅れます。そして判断が遅れるために荒波に飲み込まれがちです。

 

新事業への挑戦、新分野への進出…といったことというのは、社会環境の望まぬ変化と状況こそ異なれ、未知領域、挑戦領域へ踏み込むことに他なりません。

 

こういった挑戦領域において、判断軸を外部に依存していて上手くいくと思いますか…ということです。自分で判断しなければならないし、これは時に自身を苦しめることになる判断まで含めて一緒に飲み込むことに他なりません。

 

ここで世の中の正しさは様々であるからこそ、経営者は自社の“正しい”を示していくことが欠かせません。例えば、名経営者、稲盛和夫氏は正しさについて「人間として何が正しいか」という基準を示されています。

 

また、政治哲学分野では、正義の視点として3つの視点、「幸福・自由・美徳」が知られています。みんなを幸福にしようとすれば個人の自由が犠牲にされかねず、自由が過ぎれば美徳・道徳が侵される…。

 

もちろん、こんなに単純な話ではありませんが、自ら判断を下していくことができる経営者に共通するのは、判断にあたってご自身の“正しい”を持っていて、それを判断軸にしているという点です。

 

荒波を味方に乗っていこうとするならば、正解探しの様子見を辞めて、まずは自らの“正しい”を整理することが大切です。

 

経営者として自分の“正しい”で決めていますか?

“正しい”で決めて自ら荒波に漕ぎ出していますか?

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