【第301話】付加価値経営と利ざや経営の成長構造の違い
「お客様にもお喜びいただきながら、納得の価格でご契約いただきました」というご連絡には、特別な意味があります。
それは、新商品というこれまでの開発努力が現金化されたということに加えて、最終的に、経営は数字で結果を把握しなければならないという現実があるからです。
一方、「売上〇億円を目指します」、「〇年までに〇店舗を目指します」といった数字だけのご挨拶をお聞きすると、一抹の不安を覚えます。
その理由は至ってシンプルです。経営という視点から世の中を見るようになって既に20年超。その中で、経営を数字だけで語った企業は、ほとんど確実に堕ちる…ということを知っているからです。
そして、その理由も分かっています。数字だけで経営を語るようになってしまうことには、構造的な理由があるのです。
なぜ、成長過程で経営がいつの間にか数字だけで語られるようになっていってしまうのか…ということは、実のところ経営そのものの中身の成長に、すでに限界がおとずれているからに他なりません。このことについて、順を追って説明します。
事業経営において利益、数字としての結果を生む要素は2つしかありません。その要素とは、「造る」と「売る」です。
商売としては、このどちらの要素も大切なことではありますが、このどちらに軸足があるかで、商売は全く異なる成長過程をたどることになってしまうということは、知っておかなければなりません。
まず「造る」ビジネスというのは、いわゆる製造発想です。商品を造ることから利益を生み出そうとするもので、材料を加工したり、より機能的な商品を開発したりと、付加価値を生み出そうとすることを目指すビジネスです。
続いて、「売る」ビジネスというのは、流通発想です。商品を流通することから利益を生み出そうとするもので、商品が無いところに届けたり、もっと高く買ってくれるところを目指したりと、利ざやから利益を生み出そうとするビジネスです。
大切なことなので、もう一度お伝えすれば、「造る」と「売る」は、両方とも大切なビジネスの要素です。ただし…、ということをお伝えしています。
事業経営において、本質的な成長を望むのならば、一義的に「造る」に軸足がなければなりません。それは、利益という概念の根本が付加価値だからです。
このことを、もう少し考えてみるならば、事業経営の本質的な成長とは、例えば、一工場、一店舗において、売上利益を向上させていくことを考えることといえるでしょう。つまり、常に付加価値、利益の源泉に想いを馳せ、経営の核に据えているということです。
一方、「売る」に軸足があるとどうなるかということです。事業の難易度、商品開発と付加価値をさておいて、今ある商品、今の事業フォーマットをコピペしていくことが優先されるようになります。
このため、売上を成長させていこうとすると、工場数、店舗数…といった具合に、“数”だけで経営が語られ始めるのです。
もうお分かりと思いますが、「造る」に軸足のある経営は、付加価値を向上させようと努力します。このため、成長過程は、付加価値から生まれた利益の再投資によって築かれていくために、“指数的”な成長を見せます。最初の頃、歩みが遅いように見えても、途中から急激に、指数的に成長していくという伸び方の特徴があります。
一方、「売る」に軸足のある経営は、利ざやの拡大を目指す経営ですから、今の利ざやをいかに広めるかが、利益向上の基本戦略となります。よって、工場数、店舗数…を増やすために数字が目標となってしまうのです。
この場合の成長は、工場数や店舗数に対して比例した“線形的”な成長となります。売上利益の額は伸びていますが、大抵の場合、収益性を下げながらの拡大となります。
商品力、事業フォーマットの更新なくして、本質的な成長はあり得ません。このため、数字だけ経営は、いずれ時間の問題で限界を迎えてしまうのです。
「売る」も大切ですが「造る」に軸足を置いていますか?
歩みが遅いように見えても“指数的”な成長を目指していますか?