【第278話】売れないのは商品が商品化できていないから!?
「…という経営方針の下、これまでに、〇商品、△商品、□商品を順次、商品化してきました」といった会社紹介や経営計画をお聞きします。
こういったお話をお聞きした際、必ず質問させていただくことがあります。それは、商品ごとの販売状況ではありません。もっと、根本的に大切な情報です。
それは、商品の「価格」です。経営者の側からすれば「値付け」の判断です。
これまでの経験から、商品とその価格、だいたいの顧客層や販売チャネルをお聞きすれば、その商品がどの程度売れているのか、採算に乗せられているのかといったことは、概ね察しがつくものです。
当然ことながら、お客様は商品の価値とその価格を天秤にかけて購入を考えます。価格は重要な商品情報なのです。このために、安ければ売れやすいし、高ければ売れにくいという傾向が生まれることは確かです。ただし、それだけではないというところに商売の不思議があります。
実際、どのような新事業立ち上げにおいても、新商品・新サービスの価格というのは、極めて大きな悩みどころです。特に、独自性の高い新商品・新サービスともなればなおさらです。
最後の最後、値付けでしくじる怖さから、多くの場合、まずは市場浸透を狙って「ちょっと安めで様子見」といった腰の引けた価格が多いようにお見受けします。
少し話は逸れましたが、お客様にとって価格とはどんな情報を示しているのかということについて、経営者はよく理解しておかなければなりません。
営業トークにおいて、価格の情報提示には二つのパターンがあります。一つは「安いから買いませんか?」です。これは、いわゆる「価格売り」というもので、同様の価値を持つ競合商品と比べで「安いので買いませんか?」という営業トークです。
この場合、お客様の価値は何かといえば、残念なことに商品の価値ではありません。これは言い換えるならば、他と比べて安い分がお客様の価値ということになります。
このことは、お客様は商品の価値を買っているのではなくて、商品の入手手段の違いを選択しているということを意味します。このため、価格売りは手数料ビジネスである販売流通業などで用いられやすい営業トークといえます。
ただし、残念なことに、これを付加価値ビジネスであるモノ創り企業で実施したならば、どうなるか…。持続可能な採算を成り立たせていくことが難しいことは容易にご想像いただけるものと思います。
もう一つの営業トークは「〇〇しませんか?」と、商品をお客様への価値提案に仕上げてから販売するというものです。いわゆる「価値売り」です。
大切なことなので、もう少し補足するならば、「価値売り」とは、新商品がお客様にとってどのような嬉しい状況をもたらすのか、利用シーンや用途としてご提案するものです。
足りてる時代――、このことを前提とすれば、どんなにすばらしい商品であっても、お客様にとって足りていれば、その商品価値は“ゼロ”だということです。
モノの価値はお客様にとって足りていれば“ゼロ”。このことの意味は、「安くしても売れない」、「タダでさえも要らない」という身の毛もよだつ現実です。
新商品をカタチとして仕上げるだけでも大変なことは十分に承知しています。だからこそ、最後の一工夫、その商品をお客様への価値提案に転換してから営業トークを組み立てることが、採算を創るために欠かせません。
商品はできているが、商売にならない。その原因は、商品を価値提案化できていないことに起因します。つまり、商品化のための最後の一工夫が足りていないのです。
商品化とは、商品が物理的にできあがっていることではありません。お客様への価値提案に転換できて、商売として採算が成り立つことです。
これは、外注先などから買ってくることのできない商売の本質部分です。良い商品だと叫ぶ前に、一度、立ち止まって渾身の新商品を価値提案化する意識が大切です。
渾身の新商品はお客様の価値に転換されていますか?
商品の価格は価値に対する値付けになっていますか?