【第279話】技術ビジネスを着実に離陸させる事業化の進め方

「〇〇技術のチームを立ち上げようと思うのですが…」と仰るのは、目下、成長中の技術企業。社長ご自身もエンジニアで、先端技術を世の中にどう生かしていくか、技術進歩をどのようにビジネスに転換していくか、新技術を自社独自のビジネスにどう仕立てていくか…、情熱が尽きません。

 

新技術、モノ創り、エンジニアリング…、技術経営の難しさは、技術・テクノロジーが進歩し続けていくことにあります。

 

技術進歩は市場の新陳代謝を促すため、新たなビジネスチャンスを生み出すと同時に、既存技術の陳腐化は開発投資の回収を困難にし、経営を傾かせる原因になることもあり得ます。

 

技術進歩は、それを情報として商売にできる文系ジャーナリズム的な立場からいえば、「新技術でこんな未来が訪れる…」といった発展的で明るい未来、推論が許されます。

 

一方、研究者、技術者といった、その世界にどっぷりの理系エンジニア的な主体者は事情が違います。主体者ですから根拠の薄い推論展開はそれほど許されません。

 

技術者は、「どんな技術にも一長一短がある」、「何ができて何ができないか」という新技術の限界をよく分かっています。よって、その新技術が世の中に広まることのメリットだけでなく、デメリットも理解しています。

 

このため、「これからは〇〇技術の時代ですよね」といった文系ジャーナリズムの問いに対して理系エンジニアは「そうです」と嬉しそうに答えます。

 

ところが、この後の会話で、文系ジャーナリズムが「○○技術で世の中は、こんなことになりますよね」と言った瞬間、理系エンジニアの顔は曇り「そうではありません」となります。

 

「そうです」と言いながら「そうではない」。一見、矛盾する意見が同じエンジニアから出てくる理由は、極めてシンプルです。

 

それは、技術進歩の大きな流れについては賛同できたとしても、その技術がもたらす効果効能について、想定されるメリットだけにフォーカスして全てを肯定することはできないということなのです。

 

このため、文系ジャーナリズムから見ると、理系エンジニアは言及範囲を限定する傾向が強いために、頭が固い、頑固で応用が利かない、ビジネスチャンスに対して保守的…、といった意見が生まれることになるのです。

 

こういった、立場の違い、価値観の相違というのは、ビジネスをどう見ているかの違いと直結しています。

 

事業化にあたり、文系ジャーナリズムは新技術の普及者・応用者として「メリットの最大化」をイメージします。一方、理系エンジニアは新技術に対して提供者・製造者としての責任を感じているため、「デメリットの最小化」にも取り組まなければなりません。

 

実務において、新技術を事業化するとは、技術を世の中の利用価値に転換することで採算を成り立たせることです。

 

みな人間ですから、実務的には、この文系ジャーナリズム的発想と理系エンジニア的発想に折り合いを付けて進んで行くことが、新事業立ち上げのキーポイントになります。

 

実のところ、技術の進歩というのは、相応に時間のかかることです。例えば、電気自動車であれば、30年以上前には構想され既にプロトタイプが存在しましたが、実用化されてきたのは最近です。新技術が構想のレベルから実用化されるのはそういう時間軸です。

 

こういった、本質的な技術進歩の時間軸にあって、それを事業化していこうとするならば、進歩発展中の技術を、新事業を開始する「時点」を設定して議論することが有効です。

 

これは、「ほぼ現在の技術水準を事業化する」ことを考えるという意味ですから、その先の進歩を無視しているように見えますが、その後の技術発展を相場師的に議論するよりも、着実に一歩を進めていくためには現実的なアプローチです。

 

文系ジャーナリズム的な「未来の技術」ではなく、理系エンジニア的な「現在の技術」をベースに技術の事業化を検討する意識が大切です。

 

まだ実現してもいない未来技術だけに意識が飛んでしまっていませんか?

未来技術よりも現在技術の事業化を優先していますか?

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