【第256話】技術ビジネスを成長させるための思考軸

「社長はこの技術に強いコダワリがありまして…」と経営陣。新事業、新分野への挑戦を進める中で制約になってしまい、いつも頓挫の憂き目にあうとのこと。自社の強みを整理してきたプロジェクト会議の席に手詰まり感が漂います。

 

モノ創り、エンジニアリングの企業は、材料を違うカタチへ転換するという意味において、価値を付加するビジネスの根本モデルです。このため、良くも悪くも技術がベースですから、社長が技術者であることや、技術に精通していることはとても大切なことです。

 

ではなぜ、社長の技術へのこだわりが活きないのか、活かせないのか…。ここで問題となってくるのが、その技術に対する意識です。その技術意識が職人的で、お客様への応用を欠いたものである場合、その技術がいかに高度で先進的であったとしても、それはビジネスという視点から足りていないのです。

 

我々は、基礎研究を行う研究機関ではありません。あるいは、研究の第一線を争う大学でもありません。これら先人方の研究成果である技術を、お客様へ応用し価値化していくことが使命です。

 

このことは、その技術がいかに高度で先進的であっても、ビジネスという視点から見れば、それはいわば“技能”と呼ぶべき実行能力でしかないことを意味します。

 

ちょっと考えれば分かることですが、技能がありますというセールストークは「こんなことをできます」と宣言しているに過ぎません。技能自体は素晴らしいことですが、このセールストークは「仕事を下さい」と聞こえなくもありません。

 

また、技能をそのまま売るということは、例えそれが高度な技能であったとしても請負代行ビジネスですから、その受注代金は「要する費用」ベースにならざるを得ないという収益構造上の限界を抱えています。

 

原則として、新事業を現有事業よりも高収益化していこうと考えるならば、アプローチは二つあります。技能をもっと高めて請負単価を上げるか、あるいは技能を応用して付加価値を上げるかです。この違いが、似て非なるビジネスと収益性を生むのです。

 

面白いのは、社長が技術にこだわるほど、ビジネスが請負代行的になり、仕事のもらい方が拡大することで売上を増しつつ、同時に収益性を落としていくということです。

 

収益性が落ちていくことの理由は簡単です。技能を向上させていくために要する時間が、請負単価が下がっていく速さに追い付かないからです。そして、唯一の打ち手であるコスト効率化にも限界があるからです。

 

だからこそ、技能を高めつつ、現有技能を応用して価値提案型のビジネスを構築していくことが、存続発展には欠かせないのです。

 

もちろん、「価値を付加するというのは大変だから…」ということもお聞きします。そのため、技能のままでの請負代行業に甘んじながら商売を続けられている方も多いのが実態でもあります。

 

ただし、これだけはお伝えできます。そのままではいずれ収益性を喪失するということです。売上の多くが請負代行型であっても、応用による価値提案型で一定割合の売上を獲得することを目指す経営計画を立てることが大切です。

 

実際、多くの企業が新事業、新製品での高付加価値な売上を経営計画に織り込んでいます。ちなみに、経験的には、売上の3割程を自らの応用開発による価値提案型の売上で実現できたとするならば、全体の仕上がり損益としては、なかなかの数字に仕上がります。

 

自社の強み、技能から新たな応用価値を見出そうとした際、決して、売れそうなモノはないか、何かおカネになりそうなものはないか、欲しいモノをお客様に聞こうか…などとマーケットイン的な発想を持ってはなりません。

 

応用価値を売れるレベル以上に仕上げさえすれば必ず売れます。新たな市場を創るというのはそういうことです。そしてそれは自分たちで考えれば必ず独自の市場になります。

 

この意味で、モノ創り、エンジニアリング企業の新事業構築は「技能を起点に、応用価値を考えて、売れて儲かるレベルに仕上げる技術」のことであり、これはある意味で自分たち側の闘いであるからこそ、プロダクトアウト的な発想で望まなければ、成功への一線を越えていくことが難しい性質の挑戦なのです。

 

自社の技能をお客様価値に応用しようとしていますか?

技能を独自の技術にしてから売ろうとしていますか?

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