【第218話】嘘のない経営に大切なこと。
ある社長は懇親会の席で、「ウチは公明正大であることを前提としている」と仰います。時代がどんどんと変わっていく中で、世の中の要請としてそういったことに対応していくのではなくて、自社のモットーとして、自らの意思で誰に見られても恥ずかしくない経営を目指されています。
また、ある社長はそういった公明正大で整った経営を、「いつでも上場できる状況」とご説明されます。
あるいは、ある社長は自分が創業した会社を「会社を公器にする」といい、高い税金を納める覚悟で、本店所在地を海外から日本へと移されています。
企業の“誠実さ”が改めて問われています。しかし、この“誠実さ”というのは、それを求める人の主観に依るところが大きく、これに応えていくというのは、なかなかに骨の折れることです。
例えば、事業を経営していれば、対外的に公表すべきでないこと、できないことを多く抱えます。
特に、新事業の立ち上げ準備をしていたり、新製品の開発をしていたりといったことは、いわば企業秘密であって、外に向かって「公式発表まで言えないこと」です。更に、特許やM&A、上場準備といった手続きや相手のあることになってくればなおさらです。
上場企業ともなれば、情報発信が株価に影響を与えてしまいますから、公表すべきことを公表すべきタイミングでキッチリとしていかなければなりません。
このように、準備段階にあってまだ公表すべきではないと考えていたことであっても、タイミングが遅くなれば「隠していた」、「隠ぺいしていた」、「嘘をついていた」といったことになってしまいかねません。
こういったことに携わる経営コンサルタントは、話をすることが仕事のように思われるかもしれませんが、実は、「話さないこと」の役割が極めて大切という不思議な仕事だったりします。
これは、秘密保持契約や秘密保持条項といったフォーマルなものというよりは、むしろ経営者としての善管注意義務、ビジネスマンとしての分別です。
ところで、意図的な会計操作や、役員報酬をコソコソと貰っているようなことは問題外として、事業経営にあたっていれば、悪意は無かったとしても、時に結果として嘘になってしまうようなことが起こり得るものです。
例えば、生産設備にトラブルが発生して納期が遅れてしまったり、納品先を間違えて配達してしまったり…、といったオペレーション上のミスです。
こういったオペレーション上のことは、誠心誠意対応しつつ再発防止に努めていくとして、経営者としてもっと根が深いのが「理念、使命感に嘘がある」場合です。これは、本当に笑っていられないことです。
なぜ、そんなことが起こってしまうかといえば、「誰もが反対できないような万人受けする理念や使命感を掲げることで、仕事をもらおう」と考えてしまっていることに原因があります。
このことは、「理念を体現していく」という屈強な態度とは裏腹に、実は既に精神的に負けていて「仕事ください」、「私をもういじめないでください」、「優しくしてください」と叫んでいることであったりします。
毎日のオペレーションでエラーが発生することはあり得ます。だからこそ、お客様やお取引先様への約束を果たしていくために、このことについて普段から注意を払っていることは大切なことです。
しかし、経営者としてもっと大切なことは、ご自身の掲げた理念、使命感といったことに対して本当に嘘がないことです。
嘘の使命感を掲げ続けていれば、いずれ現実の方を曲げてでもその嘘を守ろうとしなければならない日がきます。その時、本当に恐ろしいのは、現実世界で嘘をつかなければならなくなることです。
嘘偽りなく“誠実”に理念を掲げていますか?
仕事を貰うために万人受けの使命感を掲げてしまっていませんか?