【第216話】ビジネスへの“情”が経営を強くする。
「売上半減は想定の範囲内」、そうおっしゃるのは、過去、様々な事業を展開されていたものの、現在の事業1本に集約化して、今ではその分野でトップシェアを築いておられる社長です。
これまでの波乱万丈な経営をお聞きしていてつくづく思うのは、事業経営は栄枯盛衰の世界だということです。経営とは終わりのあることなのです。
だからこそ、この寿命をどう伸ばしていく“つもり”なのかという経営者の意思が試されています。
この栄枯盛衰という事実から分かるもう一つの事実は、「経営者にとって未来は常に暗い」ということです。
当たり前のことですが、望んだ未来が向こう側から勝手にやってきてくれることはまずありません。むしろ望まないことが次々と襲ってくるのが経営者の仕事というものです。
このことを逆から考えれば、放っておけば堕ちていくであろう暗い未来を想像し、どう明るくしていきたいのかを描き望み、それを実現していくために努力していかなければならないということです。
経営者であるならば、「未来は明るい」といった受動的で能天気なポジティブ思考では困るのです。「明るい未来」を描き創っていく主体はご自身なのですから、「必ず未来を明るいモノにしてみせる」と能動的に主体性をもって叫んでいただきたいのです。
この「明るい未来」というのは、大きく描くほど、みんな同じものになっていきます。例えば、「世界が平和でみんなが笑って暮らせる毎日」といったことです。これはこれでそうなのですが、これでは企業として描く未来としては大きすぎで遠すぎます。
では、どうすればよいかといえば「30年後を描く」ということです。
なぜ30年なのかといえば、「経営者としての一生を賭けて成すこと」に相応しい期間だからです。そしてこの30年という数字は、企業寿命の平均値である約25年を超えているという点で、経営者にとって統計的に優れた意味を持っています。さらに、事業を企てて30年続けば、例え小さかったとしてもそれはもう一つの文化、歴史を築いたといえるからです。
「30年後の明るい未来…、そんな先、私は生きていない」といった声が聞こえてきそうですが、そう仰らずにもう少しだけ聞いてください。30年後に続く10年後が創れれば、そのバトンを渡せれば、それは十分に30年後を見据えていることと同じです。
不思議なことに、「自らが描いた明るい未来」を持って経営にあたっているかどうかを、ほとんどの経営者が嗅ぎ分けます。自分の頭で考えずにおカネになりそうだからと他人が描いた未来に便乗していることも分かります。経営の世界で百戦錬磨、戦い続けてきた経営者の嗅覚というのはそういうものです。
それはともかくとして、この「明るい未来」を描くとなると、それを目指してくアプローチというのは、実のところ限られています。応用策としての打ち手は無限に考え出すことができたとしても、アプローチ自体は極めて限定的なのです。
その理由は簡単です。無い袖は振れない、無いモノはないのです。望むと望まざると、今、経営者として最大限に力を発揮できる経路から、描く明るい未来を目指していく――、しかできないのです。
この限られたアプローチこそが「本業」です。
このため、本業意識というのは、「誇り」といった格好の良いことというよりは、ご本人にとっては、むしろ時に制約にさえ感じてきたことであったりします。
あるいは、「情熱」といったこととも少し違うかもしれません。心のどこかで「本当は違う…」などと感じながらも、むしろ長年のビジネス経験を通じて湧いてきた“情”みたいなものと言った方が近いでしょう。
好きなこと、本当にやりたいこと…といった遊び感覚は捨てて、経営者として、プロとして、これまでに育ってきた“情”を通じて、心に描く「明るい未来」を目指していくことが大切です。
30年後の「明るい未来」を思い描いていますか?
本業一筋に“情”を育てていますか?