【第212話】足りてる時代、新事業立ち上げ成功の絶対条件
「宮口さんは、このプレッシャーによく耐えられますね」。
新製品をようやく完成させたメーカーの経営者とアメ横の居酒屋で一献傾けている時の一言です。2年弱の開発期間を要しましたが、当初予定よりも早く開発を成功させました。いくつもの技術的な課題を克服し、度々の失敗を経て、最終テストの完了にたどり着きました。
もちろんプレッシャーを感じていないことは全くなくて、むしろその逆とさえいえます。経営コンサルタントという仕事は、実は顧問先企業の成功を顧問先以上に願うものです。
よって、もう出来得ることがそれくらいしかないと思える時には、商売や勝負事の神様である神田明神に人知れず願掛けに行くことさえあります。
それはともかくとして、新事業構築、新製品開発…、そして新販売戦略といった挑戦領域での取り組みの成否というのは、“準備努力”で決まります。
ここでいう“準備努力”とは、「お客様の声への応え方」を考えて、ご購入いただけるカタチとして製品・サービスを整えることです。
これを逆から見れば、売り出してみたら売れない…というのは、お客様の声に応えられていないということです。
簡単そうにも聞こえますが、これが極めて難しいことです。企業側にも技術力や人材、資金面での事情がありますし、もちろんお客様側にも欲しくない、予算がない、今はちょっと…といった事情があります。
こうしたことを考えれば、新事業の“準備努力”というのはお客様のまだ発せられていない声に応えていくことを考えることです。そして、そのまだ聞こえぬお客様の声をプロジェクトで取り組むべき準備事項へと翻訳して伝えていくのが我々の仕事でもあります。
このことから、新事業を成功させる経営者が口にするお客様というのは、プロジェクトが進むにつれて具体的になっていきます。最終的には固有名詞にまでたどり着いて、そのお客様に初期ロットの販売が成立することさえあります。
極めて当然のことですが、事業が事業として成り立つというのはお客様あってのことです。モノづくり日本だとか、地方活性化とか、そういった国の予算配分テーマや自治体の事業テーマといった、税金をどこに配分投入するかといったお客様不在の事業とは根本が異なります。
なぜこんな当然のことを改めてお伝えしているのかといえば、それは商売人としてとても重要なことだからです。このちょっとしたボタンの掛け違い、勘違い?が経営者人生をあっという間に10年、20年…と食い潰してしまうからです。その後にやってくるのは、後悔してもしきれない中で時間切れ…という極めて悲しい現実です。
面白いことに、「頑張っている」と仰る方に限って、教科書レベルを「頑張っている」と勘違いされています。それは誰もがやっている平均的な努力であって、そしてまだ自分のために頑張っているのであって、意識がお客様に向いていますか?ということです。
改めて言うまでもなく「商売の成否は創意工夫」にあります。こう言われれば「私だって考えている」と文句の一つも言いたくなる気持ちは、経営者なら誰でも身に染みて分かります。しかし、ここでお伝えしたいのは、頑張り方に対する勘違いは、経営者としての根本が怪しいと言わざるを得ず、実にこれからが心配だということです。
とても原理原則的なことですが、挑戦領域というのは、まだ誰も到達していない未踏の領域だということです。既存の知恵の習得までは積み上げで来れたとして、創意工夫とはその先…のことです。
その先に行くためには、既存の知恵を積み上げた上で、絶対にしなければならないことがあります。それは「お客様のために飛ぶ」ことです。お客様のためになるという信念があるならば、こちらのリスクでそこに飛び込むのです。これをある社長は「120%の努力」と呼ばれています。
これくらいで勘弁してくれないかな、ここまで頑張ったから何とかならないかな、今やれることで儲かることはないかな…、いつまでも100%未満の安全領域にいて、新事業の成功はおぼつきません。もっと言ってしまえば、それは御社にとって新事業なだけであって、世の中一般から見れば既に足りている既存事業でしかないのです。
御社の努力は創意工夫の領域に入っていますか?
最終的には飛ぶ心構えができていますか?