【第189話】足りてる時代の成長原理

経営を永く続けていれば、良い時もあれば悪い時もあります。浮き続けるために努力している訳ですが、状況によっては沈む瞬間もやってくることがあります。そして、経験豊富な経営者ほど、そのことを大変良くご存知です。

 

とある百戦錬磨の豪傑社長は、経験から「売上半分は想定内」と仰います。かつて横に拡大させていた事業を本業一本に集約させて、とある事業分野で国内No.1を獲得されている名経営者です。

 

これまでのご苦労をお聞きすれば、それはもう生き死にの淵を行ったり来たり、しかも幾度となく…。こういった波乱万丈の中にあっても、名経営者の生き方というのは実に筋が通っているから不思議です。

 

そしてこうも仰います。「おカネさえあれば経営は簡単だ」と。これを逆から聞けば、「おカネの無い中でこそ経営者の力量が問われる」ということです。

 

経営においておカネが厳しくなってくる状況というのは、売れないからです。

 

売上さえ立てば経営の大方の問題が解決するように見えますが、実はそうではありません。売上減少は症状でしかないからです。ですから、その症状の根本に立ち戻って考えることが大切です。

 

商品力の問題なのか、販売力の問題なのか。あるいは、競合と競り負けているのか、市場そのものが縮小しているのか。売上減少という症状の根本的な構造に切り込んでいくことが欠かせません。

 

昨今、売上減少という症状の原因として多いのが、市場そのものが縮小している場合です。これは構造的であり、我々の努力でそう簡単に太刀打ちできるものではありません。

 

ただし、その商売をあきらめましょう…と言っているのではありません。経営の前提条件が変わっているのですから、それに合わせて再構築していきましょうということです。

 

要は、商売の仕方を変えて、新たな市場・顧客の創り方を考えなければならない時に来ているということです。

 

新たに売上を積み増していこうと考えるならば、経営者には大きく二つの選択の方向性があります。

 

一つは、自分で市場を創ることを目指すこと(自創市場)。もう一つは、他者が創った市場に便乗することです(他創市場)。ここで、自創市場とはお客様が「欲しい」と思えるような市場です。一方、他創市場というのは、例えば社会問題や法令、問題の表面化などによって「必要性」から成り立っている市場です。

 

もう少し補足すれば、自創市場というのは潜在的ですが自社からの働きかけによって市場そのものを立ち上げることです。一方、他創市場というのは顕在的で自分以外による理由で市場が立ち上がっている状況ということです。

 

そして、売上を積み増そうと考えた際、多くの経営者が顕在化していて、もう見えるが故に他創市場に参入してしまいます。そして後悔します。

 

後悔の理由は簡単です。儲からないのです。よく考えていただければお分かりかと思いますが、他創市場は顕在化しているので売上にはしやすいものの利益を生みにくい市場です。必要だから売れるだけであって、欲しいから買っている訳ではないからです。

 

今の時代、足りてる時代。このことを前提とすれば、「必要ないけど欲しい」といわれる自創市場こそ真の成長発展を目指す経営者が挑むべき方向性です。

 

売上拡大のために他創市場に便乗するのか、豊かな利益のために自創市場創りに挑戦するのか。他創市場で優位性を競うのか、自創市場で独自性を競うのか。

 

もう大方、足りているのですから、これから売るモノというのは逆説的に聞こえるかもしれませんが、原則それは「必要ないモノ」なのです。でも、お客様にはまだまだ「欲しいモノ」があるのです。

 

足りてる時代、豊かな成長発展を目指すならば、それは「必要なモノ」ではなく「欲しいモノ」に拠ってもたらされるのだということを知っておくことが大切です。

 

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