【第188話】成長リスクを負う社長と借金だけ負う社長の違い
「この新事業を絶対に上手くいかせます」と「この新事業は絶対に上手くいくと思うんです」の間には、極めて大きな意識の差が存在します。
世の中を創っていこうとしているのか、はたまた、変わりゆく世の中にただ適応しようとしているのか。例え小さかったとしても自社の世界観を創ることに挑もうとしているのか、長いモノに巻かれようとしているのか。能動的か、受動的か。世の中のこれからをどう見ているのか…、経営者としての意志がにじみます。
当然のことながら、ビジネスにリスクは憑き物です。ビジネスが「ノーリスク・ノーリターン」の世界であることは、物心ついた頃から本能的に分かっていることでしょう。
この前提に立てば、「経営という投資行為に対してどのようにリスクを負うか」ということについて、「なんとかく…」でやっている限り、ご自身や従業員が路頭に迷うことになるのは、いずれ時間の問題だと断言できます。
では、経営のリスクをどう見ていけばよいのか…。その最悪のパターンが「ここは大きく借金して工場を建てて勝負に出ようと思います」という負い方です。この負い方には実体面でも金融面でも大いに問題があります。
まず、実体面ですが、ビジネスには大きく「請負受託型」と「企画提案型」があります。
「請負受託型」ビジネスというのは、発注者が仕事を創って、その仕事の実行を請けるというものです。このビジネスというのはいわば自社の持つ「能力」をそのまま売っているビジネスということです。
「当社のウリは技術力です」、「〇〇社からの受注実績があります」、「日本に2台しかない生産設備を保有しています」…、これらは確かに強みではあるのですが、能力のことを話しています。なぜこういうウリ文句になってしまうかといえば、ビジネスが「請負受託型」だからということです。
一方、「企画提案型」ビジネスというのは、自社の持つ「能力」を自社独自の「製品・サービス」に応用して「価値」のレベルで販売しているビジネスです。
「独自開発の生産システムで業界最速の短納期を実現しています」、「独自のクラウドシステムで顧客との関係性を強化できます」、「独自チューンしたレーザー加工機で金型不要の部品製造が可能です」。
これらのビジネスは、自社の持つ「能力」をお客様の「価値」に応用転換しています。すでに“開発リスク”を取ってから、ビジネスの舞台に上っているのです。
つまり、実体面での問題は、「工場という能力を獲得しただけで仕事がもらえる」と考えている点です。要は「当社はこんなことできますので仕事ください」と言っているだけということです。これは、お客様のために働いているようでありながら、その実は自分たちのことしか考えていないということがバレバレです。
根源的には「請負受託型」ビジネスであっても、お客様が買いやすいようにサービスを標準化するなどによって、「請負受託型」ビジネスからの脱皮を目指していくことが大切です。
もう一つ、金融面からの問題は、借金自体をリスクそのものだと考えているという点です。借金は債務を負うのだからリスクに見えるかもしれません。しかし、これはあくまでも納期、数量、価格…と同様、守るべき約束事の一つでしかありません。
「ここは大きく借金して工場を建てて勝負に出ようと思います」というリスクの負い方を要約すれば、「借金で能力を買って仕事を貰おうと思います」と言っているだけということです。借金を負うだけで、何のリターン要素も含んでいません。
「請負受託型」ビジネスを借金でやるということは、安定的な受注と引き換えに発注者が負うべきリスクを転化されて負うということです。「安定のためにリスクを負う」という文脈は、ビジネスの原理原則と照らしてどこかおかしくありませんか…とお伝えしています。
運命を他社に委ねている限り、いずれ終わりは来るものです。経営者として負うべきリスクは「能力を価値へ応用すること」であり“開発リスク”です。それを成し遂げることに対するスピリッツこそがリスクテイクの本質であり、独立自尊の道を豊かに歩むための精神性の礎となるものです。
お客様のために“開発リスク”を取っていますか?
「能力」を「価値」に転換することに挑んでいますか?