【第164話】事業拡大にあって守りたいイノベーションの正統

イノベーションという言葉を聞いて、どうお感じになりますか?

 

若い経営者であれば、楽しそう、面白そう、イノベーターと呼ばれたい…、といった感じでしょうか。

 

一方、熟練経営者の多くは「新しい挑戦は続けてきたが、イノベーションと呼ぶ感じではない」といった感覚をお持ちの方が多いのではないでしょうか。

 

これは言葉そのもののニュアンスということではなくて、経営方針の基本スタンスにかかわる大切なことなので、しっかりとお伝えしておきたいと思います。

 

イノベーションを使う経営者の方々のお話を聞いていて分かることがあります。それは、イノベーションには“革新”と同時に、既存の技術や枠組みに対する“破壊”のニュアンスがあるということです。

 

つまり、「世界を変える」という革新的な面と、既存技術や既存企業群を「ぶっ潰す」という、破壊的なもう一つの意味を伴っています。

 

熟練経営者は、「壊す」ニュアンスを必要としておらず、企画、開発、研究…といったことで十分に表現できるため、イノベーションという言葉を使わないのです。

 

ですが、熟練経営者がイノベーションをしていないかといえば、まったくそんなことはありません。少なくとも弊社にお声がけいただくような積極果敢な経営者においては、静かにですが着々と革新を進めています。

 

「足りてる時代」に経営を成長発展させる、販売を伸ばす戦略方針は二つです。

・「こんなのいかがですか」と新たな需要を喚起する需要創造

・「それでいいんですよ」と是認しながら低欲求に寄り添いつつシェア拡大

 

これらの二つの方針は、組み合わせて使うこともできますが、この二つは企業文化として相いれないため、どちらかに重きを置くことになります。

 

需要創造戦略とは、新たな技術、新製品、新サービスといった、これまでを超えた価値の創出に基づくものです。お客様からは「そんなのがあったら欲しい」といって、ご購入いただくことを目指しています。

 

一方で、シェア拡大戦略の正体は“規模の経済性”競争。つまり、最も多く作ったり売ったりする企業が最も安くできるので、独り勝ちしていく世界です。経営の目標は競合他社との相対的なシェア争いに勝つことです。

 

これらを踏まえた上で、新参者たちの事業戦略のパターンを見てみてください。

 

新技術や新製品で新たな市場を創り上げているか、既存の事業モデルを“破壊”することでシェアを奪っているだけか、どちらに軸足がある事業モデルなのかがお分かりいただけるものと思います。

 

本当に世の中から求められているイノベーションとは果たしてどちらでしょうか?

 

もうお気づきのことと思いますが、求められるイノベーションとは新技術や新製品といった自分たちで努力して創ったテクノロジーを中核としている需要創造戦略だということです。

 

例え変化は小さかったとしても、カイゼンの領域を出ていないと言われようとも、それこそがイノベーションの正統です。

 

シェア拡大戦略で最も問題なのが価格の“破壊”です。極めて低価格で参入して市場シェアを奪っていく作戦です。これは、既存他社からのシェアを取って、プレイヤーだけが入れ替わっていくことになります。その“破壊”的企業の売上だけは増えますが、世の中全体として何ら新しい付加価値を生んでいないのです。

 

あるいは、規制ルール変更の働きかけなどでシェアを増やしたといった取り組みも同様です。これもプレイヤーが入れ替わるだけで、世の中全体の付加価値は向上していません。

 

事業経営者は、こういった新たな“破壊”工作と上手に対峙していかなければなりません。「気に食わん」と思っても方法論だけはむしろ積極的に取り込んでいく方が長い目で見て賢明といえるでしょう。

 

御社の経営方針は「需要創造戦略」になっていますか?

“破壊”工作の取り込みは着実に進んでいますか?

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