【第150話】経営を伸ばす社長がやっている市場適応の考え方
「今回の売上減少は、これまでのものとは違う感じがする。」とある社長からのご相談です。この一言で、この方が相当な実力経営者であることが分かります。それほどに劇的な落ち込みではないにも関わらず、何らかの異変を感じ取っておられます。
また、「今のビジネスで〇億まではいける」と予言めいたことをおっしゃる社長もいらっしゃいます。ですが、これ当てずっぽうではありません。背景にしっかりとした根拠となる読みがあります。ですから、不思議なほどに実際にそうなっていきます。
一方、頑張ってはおられるものの、10年以上にわたって売り上げを減少させ続けてしまっている場面にも遭遇します。お話をお聞きすれば、売上減少についてはしっかりとご認識なのですが、打ち手を繰り出すも「暖簾に腕押し」で、売上減少に歯止めがかかりません。
状況変化を敏感に感じて対応していく社長と、分かってはいるけど対応しきれない社長、この大きな違いを生んでいるポイントは、一体何なのでしょうか?
ビジネスの最前線では、市場規模、競争要因、技術革新…、これらの状況変化が複合的に進んでいきます。この変化をピッタリと現すデータなどもありませんので、変化を正確に捉えていくのは、なかなか難しいことです。
実際、携帯電話が普及したらマンガが売れなくなったなど、まさか…の因果関係で市場が塗り替えられることもあります。
この場合、「通勤途中の暇な時間」という市場を、携帯電話がマンガから奪ったことによるものでした。つまり、「暇な時間」という市場そのものが縮小したのではなく、そこで用いられる解決手段が置き換わってしまったのです。
ビジネスがビジネスであり続けるためには、そのビジネスが前提とする状況があります。言い換えれば、そこが崩れるとビジネスが立ち行かなくなるクリティカルな“前提状況”があるということです。
電気自動車が増えればガソリンエンジンは要らなくなりますが、「移動」という市場が無くなるわけではありません。
一方、手段が市場を変える場合もあります。自動運転になれば運転手はいらなくなりますし、そうなれば自動車を所有するという概念そのものが無くなり、自動車を売る相手も変わっていくことになるかもしれません。
あるいは、魚を食べるという市場が無くならなかったとしても、皆々が調理済みのレトルトパックを買って食べるようになったとすれば、生のまま売るという提供方法は通用しなくなってしまうということです。
つまり、モノだけでなく提供方法の違いによっても市場が異なっているということに気が及ばなければ、「みんな魚を食べているはずなのに、ウチの魚は全然売れない」となってしまうのです。
どんなビジネスでも“前提状況”は、大きく「市場」と「手段」で捉えることができます。逆から考えれば、「市場×手段」でマーケットを切り出すことで、御社独自の事業スペースを作り出すことが可能ということです。実力経営者はこうやって自らが勝てる領域を創り出しています。
「市場」と「手段」は、ビジネスの“前提状況”を表す重要な切り口です。この“前提状況”の変化を「構造変化」として見られるか、「儲けのネタ」程度に聞き流すか――。
実力社長は「構造変化」に気づき、自社の主戦場となる「市場×手段」を再定義した上で、打ち手を繰り出すので、効果を発揮します。
一方、「構造変化」に気が及ばず、変化を「儲けのネタ」程度にとらえて考えた打ち手というのは、所詮、症状対応であって、根本をとらえていないため効果が薄いのです。
社長の市場適応は、「構造変化」を感じようとしているのか、「儲けのネタ」を探しているのか。同じような情報を見聞きしたとしても、見方、聞き方、考え方…、基本姿勢によって経営は天と地ほどの違いを生んでしまうのです。
御社に売上・利益をもたらしている“前提状況”は何ですか?
次なる打ち手は「構造変化」に対応していますか?