【第139話】着実に理想の未来を実現していく投資の進め方

「ほとんどの商品が売れないで沈んでいますからね。」これは現在、結構な売れ行きを誇っている商品を企画している頃に、社長が発した現状認識です。

 

優れた社長は、現状を正しく見る力に長けています。事実は事実として、そこに慰めや偏見はありません。

 

ポジティブシンキングやプラス思考とは、未来を信じる姿勢、あるいは変に無用な不安を抱かないといったことであって、決して現状を正しく認識せず、能天気なプラスバイアスで物事を見るのとは違います。

 

現状を正しく認識し、それが実に厳しい状況であったとしても、そこからどうやって明るい未来を描くか、その実現を本気で信じることができるか。これこそが“社長力”とも呼ぶべき能力といえるでしょう。

 

本質的に経営とは投資です。必ず先に資金が手元から離れ、その後、それが源となってリターンが帰ってきます。

 

正常営業循環、すなわち、材料仕入、加工、検品、納品…という最小最短の投資サイクル(キャッシュコンバージョンサイクル)であってさえ、材料仕入で代金を支払い、納品後に入金されるまでが一つの投資単位です。そして、売れなければ在庫の山となり、投資回収が困難化します。

 

もっと大きな投資、例えば設備投資となれば、工場を建てて、その工場で製品を作って、その粗利から工場建設に要した費用を回収し、投資回収ができたならば、そこからやっと投資リターンを生むことができます。

 

経営は投資です、と常々申し上げています。この投資というのは、競馬のように「馬券を買ったら後は結果を待つだけ」ではありません。自分で出走しなければなりません。このため、投資してからが勝負…。材料を仕入れてからの加工で頑張る…、工場を建ててから頑張る…、と考えがちです。

 

ですが、この考え方、つまり「投資実行がビジネスのスタートラインで、そこからいかに頑張るかが勝負である」という考え方は、正しいように聞こえてしまうのですが、残念ながら致命的な間違いを含んでいます。

 

それは、「投資時点の設計でビジネスの大方の“制約”が決まってしまう」ということが十分に理解されていないからです。

 

投資によって、生産設備のキャパシティ、倉庫面積、部屋数、席数…といった物理的な“制約”が発生します。加えて、投資に使った資金は回収するまで他には使えず、投資資金を借入に頼っていれば金利だけでなく元本の返済といった資金的な“制約”も生まれます。

 

投資は、経営者が目指す理想の実現、達成していきたい夢への入口です。その一方で、経営者に一定の“制約”を課すことでもあります。

 

その点に気付いていれば、「投資時点の設計で、なるべく“制約”を受けないように考えておく」ことがとても重要です。

 

自社で生産設備や人を抱えず外注することを費用面から見て「固定費の変動費化」と言いますが、こと投資にあたっては、投資以降の経営のフレキシビリティを保つために「“制約”の流動化」を念頭に置いて実施することが大切です。

 

経営は一発勝負の大博打ではありません。しっかりと育てていく長期戦です。浮き沈みがあることを前提として、いかに事業を継続させるような投資を設計しておくか。浮き沈みある経営の世界で“制約”が弱いことはとっても価値あることなのです。

 

投資で自ら墜落しないことが肝要です。そのためにも自らに課される“制約”をいかに弱めておくかという事前の準備が欠かせません。

 

表から見たら同じような商売をやっていても、その裏で抱えている“制約”は大変に違うものです。抱えている“制約”が違えば、これはもう違うビジネスなのです。

 

初期投資を限りなく抑制したり、状況に応じて複数段階に分けて投資したり、転売可能性を考えておいたり、資金調達契約を変えたり…、こういった事前の策を尽くしておくことが大切です。投資を実行してしまってから後戻りはできないのです。

 

夢を追う投資だからこそ、投資前の準備を大切にしていますか?

“制約”を意識して準備していますか?

コラム更新・お役立ち情報をメールでお知らせします!

メールアドレスをご登録いただくと、コラム更新やコラムではお伝えしきれない情報などをメールでお知らせします。

こちらのページから是非ご登録ください。

経営者応援コラム