【第137話】社長に必要なのは目標達成力よりも目標設定力!?
「大きくなったら歌手になりたい」「将来はパティシエになりたい」「いずれは社長に……」、目標を持つことは将来を描くことでもあり、「目標がない」といった寂しいことはあまり聞きたくありません。
ですが、いかがでしょうか。「私は歌手です」と言えばいいし、多少ケーキでも焼ければ「私はパティシエです」とを名乗ることもできるでしょう。もっとも簡単になれるのは社長かもしれません。会社を設立して社長に就任すれば良いのですから。
これ、どれも目標が達成されたことになります。ですが、これで果たして、めでたしめでたし……となったでしょうか。
「今年は新店舗を3店増やす予定なんです」、「今度、新工場を建設します」、「新たな生産ラインを追設して生産性を向上させます」……、といったお話をお聞きします。どれも素晴らしい取組です。
今年こそは――との意気込みを感じますし、準備に従業員も一緒になって一所懸命に取り組んできたことがカタチになっていくのは嬉しい限りです。
ですが、社長が語る経営が、こういった自社内の取組レベルの説明だけであったならば、何やら物足りないように感じます。経営として大丈夫かな…と心配になってしまいます。
一方、「売上○億円を狙っています」、「営業利益○億円を目指します」、「利益率10%超えを目指します」……、といったご説明をされる社長もいらっしゃいます。
経営は最終的に数字が大切ですから、数字で自社の経営を語れることは一流経営者に共通する能力です。ところが、このように数字だけで経営の目標を説明されると、正しい発言のはずなのに、不思議と「この人は儲け主義か」と、大抵の人は嫌悪感を抱くでしょう。
自社の経営を取組目標で説明される社長、数字目標で説明される社長、このどちらの説明にも決定的に欠けている点があります。
それは「お客様への貢献」です。このことがあって商売は初めて成り立ちます。
売上は、自社の提供する製品・サービスの価値を「お客様」に認めていただくことで初めて発生するものです。そして利益は、その製品・サービスの価値をいかに効率的に生み出しているかによって生まれるものです。
経営を取組目標で説明される社長に心配を感じてしまうのは、やはり数字です。とても簡単に言ってしまえば、自社内の取組ならば大抵のことは頑張ればできることなのです。それをどう数字に結びつけるかが肝心です。自分が頑張ったから売上・利益が上がる……かといえば、商売はそれほど単純なものではありません。
それらの取組を通じてお客様への貢献をどのように拡大し、それに伴って売上が増大しつつ、かつ今よりも利益性・採算性を高めていく……、という仮説を伴っていることが大切です。
そして、経営を数字目標だけで説明される社長に心配を感じるのは、永く続かないだろうなということです。一時期、売上・利益のピークは立つかもしれませんが、それ以降を考えると……、疑問符が頭に浮かびます。
お客様への貢献との関係で数字が語られることが大切だということについて、これ以上の説明は不要でしょう。
自社の努力だけで達成できるような取組目標は、経営目標の設定にはなっていません。そして、数字目標だけの目標設定も同様です。実のところ、取組目標も数字目標も、お客様に関係のない御社の事情であり、努力目標でしかないのです。
こう考えてくると、社長にとって大切なのは、目標を達成するか否か以前に、“目標設定”の仕方だということが分かります。
自分で考えたやるべき努力を全てやったからといって売上・利益がもたらされるとは限りません。御社の努力に、お客様はおカネを払っているのではないからです。
目標設定を自分たちの「努力目標」としてしまうか、お客様への「貢献目標」を据えるか、社長の力量が試されています。
御社の目標はお客様への「貢献目標」になっていますか?
その上で、「努力目標(取組目標と数字目標)」を添えていますか?