【第123話】新事業が本物になるか偽物で終わるかの違いを生む境目
とある新事業立ち上げプロジェクトのキックオフ会議にお呼びいただきました。要素技術はある程度確立されつつあり、その技術をどうやって商売にしていくか、いわゆる事業化と呼ばれるプロセスです。
こういったシーンは大好物であり、これまでの開発経緯や技術の特徴など、お話をお伺いしながら、これからの進め方、超えるべき壁、顧客イメージ、利益モデルや値付け……。軽い興奮と冷静の狭間で頭がフル回転していきます。
そんな状況に水を差す一言が飛び出しました。「先行して販売されている類似商品よりも安くすれば、絶対に売れるはずだ」と。
フル回転していた私の頭は、あっという間にアイドリング状態に戻ってしまいました。事業を企画開発する立場の人間にとって、これほど冷める一言はありません。
この一言から先ず分かるのは、商品開発の目標水準が「先行する類似商品」止まりだということです。とても残念なことに、超えていこうとする意識がないのです。
先行する類似商品と同じものを作ろうなどという考えは聞いていられませんし、それで仮に売れたとして、その程度の工夫努力で利益を出せるはずがありません。
企画開発に携わる人間として、最も大切なのは「これまでを超えてナンボ」という進取の精神です。ただし、同じ競争のレールに乗るのとは違います。
そして、何も全てゼロから考えださなければならないなどと申し上げているのでもありません。先行する事業や商品は、しっかりと研究することが大切です。
それは、あくまでも先人たちの知恵を参照・リファレンスして学ぶことで、それを超えていくことが目的です。決してパクることが目的ではありません。
当たり前のことですが、二匹目のドジョウ狙いの経営が、独自の成長発展や従業員の豊かな気持ちを創り続けられるはずがないのです。
ヒット商品が生まれると、明らかにパクった類似品が出回ります。存じ上げている社長が展開し、昨今絶好調に売れている商品でも類似品が出回り始めたとのこと。
ですが、そういった模造品の出回りはそれほど心配には及びません。その理由は簡単です。彼らは「安さ」つまり「価格」でしか勝負できないからです。
一方、オリジナルな企業には強さがあります。その理由もとてもシンプルです。自社の思想が宿っているからです。
モノとして、機能として、成分として……、例えそれらが同じであったとしても、お客様は本物がどれかを見抜きます。
流通業など「売る」に軸足を置いている企業では、競合他社でも同じ商品を売っているため、価格勝負にならざるを得ない面もあります。よって、ある程度、安さで勝負して量で稼ぐという商売になりがちです。
こういった売り方のお客様というのは「安ければ買う」という方々です。価格シグナルありきです。これも一つの市場ですので、ここで勝負することについて何か申し上げるつもりはありません。
一方、製造業など「作る」に軸足のある企業は、まずお客様の「欲しい」を創らなければなりません。安く作れることと売れることはイコールではありません。
価格勝負に持ち込まれる前の勝負、つまり「欲しい」競争で、頭一つ抜け出ることが重要ですし、だからこそ高粗利を生み出す可能性が秘められているのです。
製品開発や事業開発は、大変苦しい道のりです。ですが、その新製品や新事業がパクりで終わるか、独自の本物になるかは、これまでの努力の量の違いというよりは、最後もう一捻りの違いでしかありません。
その最後もう一捻りを生み出すのは、出発時点での「これまでを超えていく」ことに対するコミットメントであり姿勢なのです。この姿勢から苦肉の策として生まれてきた独自性こそ、本物といえるでしょう。
御社の新事業・新製品はこれまでを超えていますか?
最初から価格勝負の土俵に乗ってしまっていませんか?