【第115話】「布石」のつもりで「飛び石」を打っていませんか?
「思い切って工場を増設しようと考えています。単なる工場ではありません。最新式の…」というお話。
経営は投資である、と常々お伝えしており、新事業構築、新製品開発、設備投資。。。積極的に進めていきましょうと申し上げています。
ですが、それに“ちょっと待った”をかけることもあります。その理由はいつも共通していてとても簡単です。
「打ち手の順番が違う」ということです。
前述のご相談の場合、社長殿には投資を行った後の未来像がおぼろげながら見えているという点では素晴らしいのですが、そこに向かって有効な打ち手の順番が違います。
如何せん、打ち手は足元側から打っていくべきところ、目標側から打ってしまっています。
当然のことながら、目標イメージとして未来構想を持つことは大切です。むしろ未来構想という「錦の御旗」を掲げて頂きたいと考えています。
ところが、未来構想への想いだけが強くなりすぎて、そこへたどり着くための道筋となる打ち手への意識が遠のいてしまうことがあるのです。
経営において、目指す未来像とは自分達の手で実現していくものです。買ってこられるようなものではありません。
望む結果を得るためには、必ずその過程である道筋が必要不可欠です。手に入れたい結果に投資するのではなく、その結果に至るための打ち手に投資していく意識が大切です。
どんな百戦錬磨な社長殿でも、世の中の動きが思ったとおりにいくとは限りません。目標側から「布石」を打ってしまっていると、読みどおりになれば一攫千金かもしれませんが、外れる可能性も高い。
こういった打ち手は、「布石」のつもりであっても単なる「飛び石」であって、一か八かの博打に近いということです。
一方、足元側から打ち手を展開していれば、少し回り道をすることはあるかもしれませんが、着実に目標に近づいていきますし、状況変化に対して修正が効きます。
打ち手に投資し未来像を達成していく道筋で、「飛び石」を打ってしまう社長殿は、このシミュレーションの進め方を間違ってしまいます。
それは、シミュレーションにあたる際の心構えが違うからです。
利己が強いと、「こんな立派な工場を持った会社を経営している自分」をシミュレーションしてしまいます。よって、自社の事業や製品よりも自分が前面に出てしまいます。
こうなると、早くその状況を手に入れたいとの意識から、打ち手は目標側からの「飛び石」になりがちです。
一方、利他的にシミュレーションを行ったとすると、「従業員が技術力を高められるような工場にしたい。そしてお客様にはこんなサービスも提供して。。。そのために先ずは。。。」と、足元側から打ち手が展開されていくことになります。
こういったシミュレーションを頭の中で行っている社長殿のお話は、お聞きすると直ぐに分かります。自社の事業やお客様への応え方が前面にあって、ご自身はその設計者としてあたかも裏方かのように振る舞うからです。
足元側からの打ち手は、一見地味に見えますが、これこそが本物の「布石」と呼べるものです。
そして、足元側からの「布石」こそが、打ち手を繰り出す毎に着実に強さを積み増し、経営を高めながら、未来構想を実現していくことにつながります。
一か八かの博打的な「飛び石」の魅力にはキッパリと別れを告げて、真に「布石」と呼べる足元側からの投資を着実に進めてみてはいかがでしょうか。
御社の投資は「足元側」からになっていますか?
真の強さを宿す「布石」になっていますか?