【第105話】市場への適合発想で成長を手に入れられない理由

事業や経営体を維持するのみならず、成長発展に導いていくというのはとても大変なことです。

 

そういった大変な場面だからこそ、新事業構築や新商品開発、設備投資…といった新たな取組にあたっては、経営者殿の考え方や経営姿勢が如実に現れてきます。

 

最たる姿勢の違いは、自社内部を見据えて中核能力から成長を考えようとするか、あるいは、外部を見渡して何か売れそうなモノを探すか、です。

 

多くの経営の教科書が、市場への適合こそが継続的な生存の条件だと主張しています。戦略論による戦略の定義も、多くは「環境変化への適合」を含みます。

 

当然のことながら、経営の生き死にを最終的に握っているのはお客様です。その意味で、市場への適合は絶対条件ではあるのですが、ここでお伝えしたいのは、その市場への適合を、どのように実現していくかという考え方が、事業の中長期的な成長発展、高収益構造の構築に大きく影響するということです。

 

経営環境分析や市場分析を行って、こういった市場ニーズがありますと分かっておくことは大切です。ですが、それだけで事業が成り立つほど単純ではありません。

 

多くの事業計画で間違っているのは、市場ニーズが存在することと事業が成り立つことは異なるレイヤーの問題だということに理解が及んでいない点です。

 

例えば、みんなお腹が空くという市場性の存在が、飲食店が繁盛することの説明にはなりません。あるいは高齢化が進んでいるという事実が、高齢者施設の運営で投資採算を確保できることの保証にはならないのです。

 

さらに付け加えれば、市場ニーズが在ることと、そこで勝ち続けることもまた別な話だということです。

 

市場には常に競合他社が存在しており、微妙な能力差によって特徴づけられます。最終的に成長性や収益性に大きく影響を与えるのは、この持てる能力を如何にお客様の価値に転換していくかという基本的な考え方、すなわちこれが事業戦略の核です。

 

すごく簡単な話ですが、自社の独自能力を活かせる分野でしか勝つことはできません。

 

ですから、事業を中長期的に成長発展に導いていきたいと考えるならば、自社の内部、現有能力を起点とし、それを外部に向けて、如何に収益化していくかを徹底的に考える以外、真の成長発展を辿る道はないのです。

 

自社の中核となる独自能力を起点として、その能力を今の時代のニーズに適合した製品・サービスにどう仕上げていくか。。。という順番で考えながら市場を見ることで、はじめて必要な市場ニーズが見えてきます。

 

いくら市場を広く眺めたところで、自社に有益な情報が得られるはずがありません。自社の未来像が示す方向性や、使命感、価値観といった判断軸がなければ、そもそも情報収集のテーマや範囲、手順さえ定まらないはずです。

 

市場への適合発想とは、市場起点で次々と売れそうなモノを渡り歩いていく、あるいは儲け話のような事業を単発で次々と立ち上げては散っていくといったことではありません。

 

こういった経営は、いくら時間を費やしても後に何も残らない根無し草な経営に陥ってしまう可能性が高いのです。

 

何の価値基準も持たず市場適合の発想から出発し、世の中を広く浅く眺めて、これは儲かりそうだからやってみる、賭けてみる価値はある。。。といった考え方は、残念といわざるを得ません。これでは、適合ではなくて迎合です。

 

そして、こういった独自能力を起点としない根無し草経営が、いつまでも成功するはずがありません。御社である必要性、御社が実施する合理性を、お客様が感じてくれるはずが無いからです。

 

本物の成長を図りたければ、自社の独自能力を発揮することで如何に市場ニーズを市場機会に変えていくことができるか、を突き詰めて考えていくことが大切です。

 

御社では独自能力を起点にしていますか?

市場ニーズを市場機会にまで高めていますか?

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