【第473話】新事業、顧客を絞れ…は本当か!?

「顧客像という欄があって、そこも埋めて欲しいということで書いてみただけで…、しっくりきてなかった理由も売れなかった理由も分かりました」と社長。

 

渾身のとても美味しい新商品を売り出すも、ビックリするくらいに顧客反応が薄く。やや高めな価格設定もあって、商品を置いてもらっている小売店でも更に売上が落ちていましたが、何とか上向き路線に乗せ始めることができました。

 

その拝見した資料というのは、新商品開発当初、とあるビジネスコンテストに参加した際に作ったものとのこと。

 

ビジコンの主催者から提供された様式があって、そこに顧客像という欄があり、埋めて欲しいとのことで四苦八苦しながら書いたとのことでした。

 

そこには「30代女性、独身、大手町の金融機関に勤務、年収〇万円、港区在住…」といったことが書かれていました。

 

経営はお客様活動ですから、事業計画書や商品企画書といった様式に顧客像の欄があるのは当然のことです。

 

ですが、これを書くのはとても難しいのです。

 

その理由は単純です。その欄こそがビジネスの本丸、新事業の中身だからです。

 

少し考えれば分かることなのですが、どうしても顧客像ということに気付かないまま新事業の立ち上げが進められがちです。

 

そもそも、ビジネスにはいくつかの型があり、本当の意味で次なる新事業展開を図ろうというのは、これまでの型を卒業して、もう一つ難易度の高い型に挑戦していくプロセスだからです。

 

例えば、これまで注文を受けてその商品を造っていた企業が、自社看板の商品を売り出すような場合です。

 

あるいは、ある意味、お客様のご要望に応えることが仕事であった、技術系、エンジニアリング系企業が、自社看板の新製品を売り出そうという場合です。

 

つまり、これまでの“お客様”と新事業の“お客様”では、その意味が全く違うのです。そのことに気付いていることが大切です。

 

よくよく、顧客が多様化している…と言われます。こうした顧客の多様化が言われるのは、商売が難しくなっている…という文脈で用いられることがほとんどです。

 

ですが、大企業のように巨大な市場で競合とシェアを争うようなビジネス展開と違って、中小企業の場合、むしろ大企業が手を出さないような微妙な市場規模こそが魅力的であったりします。

 

それならば、そうした顧客の多様化…といったことで新たに生まれる隙間にこそ生きる道があり、次なる機会があることは言うまでもありません。

 

前述の社長が売上を盛り返したのは、顧客像を再定義し直したからです。

 

「30代女性、独身、大手町の金融機関に勤務、年収〇万円、港区在住…」といった顧客像というのは、確かに顧客像を現わしているように聞こえますが、ビジネスとして通用するものではありません。

 

それは、顧客像が性別、職業、年収といった人口統計的なものだけで語られているからで、その人たちが同じ考え方や価値観を持っているはずはがないのです。

 

顧客が多様化している…とは、考え方、価値観、ライフスタイル…そういった心理的なことです。ですから、顧客像もこうした心理的なことで語れていることが欠かせません。

 

顧客を絞る…とは、男女といったことではありません。そんなことではなくお客様のどんな心情にお応えするのかを考えることなのです。

 

御社の新事業は顧客像をお客様の心情で語れていますか?

新商品が応えようとしているお客様の心情を語りませんか?

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