【第383話】高みを目指す経営者のリスク対策と不安の克服法
「今、怒ってきたんですよ。予定どおりに全然進んでなくって…」とご立腹の様子で社長が会議室に入ってこられました。
実は、こうした状況、珍しいことではありません。そして、こうしたエネルギッシュな状況にむしろ喜ばしささえ感じます。
ちなみに、社長、経営者の役割が「怒ること」だと言っているのではありません。思うような状況にならないことに対して、苛立ちや葛藤、期待や不安といったことを克服していこうとするパワーを持ち続けていられることに、喜ばしさを感じているということです。
当然のことながら、社長、経営者にとって、現役であり続ける限り、リスクなく安穏と過ごせるようなことはありません。
経営者が経営者たるパワーとは、キレイに言えば目指す理想、追い求める探求心、その先がどんな世界なのかという好奇心…といったところでしょう。
これを逆から見れば、現状に対する問題意識、置かれた状況に対する不満、世の中への怒り…といった形で腹に抱えていることかもしれません。
当然のことながら、こうした目指す状況を追い求めようとした瞬間から、それを達成できるのか、できないのかというリスクを抱えることになります。
そして、これと同時に、欠かせない重要な視点もあります。目指そうとすることに伴って発生するロスとして、下側のリスクも同時に負うことになります。
大切なことなので補足すれば、安定を目指すことが必ずしもリスク対策ではないということです。
経営者にとってのリスク対策とは、リスクを抱えていることを前提としてそれをどのようにマネジメントしていくのか…という問題なのです。
こうしたことを前提として、存続発展のためにリスクを取っていく際、知っておくべきことがあります。
それは、リスクを取るにあたっては異なる二つのマインドがあって、それは商売そのもの以上に、経営のスタイルを決定づけていくものなのです。
それが何かといえば、実体リスクと金融リスクです。
ここで実体リスクとは、新製品が完成するのか、技術開発は間に合うのか、生産体制は整うのか、納期は間に合うのか…といったことです。
そして金融リスクとは、仕入れ代金は支払えるのか、借入金の返済は大丈夫か、キャッシュは回るのか…といったことです。
この実体リスクと金融リスクを、どんなビジネスにも共通する「売れるのか」というリスクが結び付けています。
この二つのリスク、経営者によって嗜好が異なります。新商品開発を心配するのは実体リスク型の経営者、資金が調達できるならば実行するというのは金融リスク型の経営者です。
新事業構築、新商品開発…同じようなビジネスであっても、実体リスクと金融リスクではこれだけリスクの取り方が違うのです。実際、実体リスク経営の方が自己資本比率が高く、金融リスク経営は、借入への依存度が高い傾向を示します。
これらは、自己資本比率、借入金依存度、状況に応じたバランスの問題であって正解がないことが知られています。
では、リスク対策としてどうすべきかという視点から見るとどうでしょうか。安定させるべきは、リスク指標としての「売れるのか」ではなくて、目指し続けるという経営者の心持ちにあるのでは…ということです。
その気持ち、実体面での意識を高いレベルで維持し続けていくためには、金融面での不安を極力減らすことが大切です。そのためには、まず小さくても儲ける実体面での仕組構築が先であり、金融面の力で実体をリードするような事業構築は避けることが大切です。
実体面から事業を構築しようとしていますか?
リスクを取ることで目指す気持ちを高位安定させていますか?