【第379話】ビジネスを成功に導く専門性の発揮法
「この際、思い切って新たな事業に挑戦しようと…、それが既存事業と全く違っても良いと考えています。そこで、まずは持っている設備を利用して〇〇サービスを考えているのですがいかがでしょうか?」と社長。同席の経営陣からも挑戦への本気が漂います。
何でも聞けば、〇〇の領域は社長のご趣味でもあり、すでにそうしたニーズを耳にしているので、サービスを開始すれば一定の顧客は見込める、とお考えです。
新しいことに挑戦するだけでも大変なのに、しかもそれをビジネスとして採算に乗せようというのですから、その加速期には多大なエネルギーを要します。
ちなみに、新事業の企画検討にあたって、大きく二つの意見があることはまず知っておくべきことです。
それは、「新事業なのだから既存のビジネスに関わらず視野を広く持って企画検討すべき」といういわば環境予測、未来起点なアプローチと、「自社の中核能力を活かしてその応用発展を企画検討すべき」という能力深堀、現状起点なアプローチです。
この二つのアプローチに対する答えは、概ね出ています。その正解は後者だということです。
その昔、多角化こそが成長戦略の進め方…という時代がありました。しかし、これは永い目で見て上手くいかないことが分かっています。
なぜ、上手くいかなかったのかといえば、企業とは目的別の組織だからです。
このため、新事業展開にあたっては、企業としての理念目的から見て、あるいはお客様から見て、そこが違うような新事業であれば、子会社として別会社を設立していただくようにしています。
こうした歴史的考察から、新事業の企画検討は、中核能力、現有技術、現状起点…こうした専門性を活かしてその応用展開を進めることが成功への近道です。
ただし、この際、重要な切り口となる専門性にもいろいろな認識があって、ここを間違うとほぼ確実に企画検討の入口を間違います。
ビジネスの専門性には「製造業型」と「流通業型」があります。大切なことなので補足すれば、専門性における製造業型や流通業型とは、いわゆる産業分類の製造業、流通業とは違うということです。
ここで、製造業型の専門性とは、自社の中核となる能力技術やそれを使った応用分野を中心に組み立てることです。
自社のビジネスが製造業であれば、ほぼその延長線上にある専門性の発揮の仕方です。また、流通業であっても販売ノウハウ、顧客対応力といったことの応用で新事業を企画検討する場合は、中核能力の応用ということで、製造業型の新事業展開といえます。
一方、流通業型の専門性とは、すでにある商品や能力技術を新たな商材として取り扱いに加えるような新事業の企画検討です。
自社のビジネスが流通業であれば、その延長線上で取り扱い商品の拡充、既存顧客へのクロスセル、アップセルといった専門性の発揮の仕方です。あるいは、製造業であっても、既存技術や製法といったことを学んで取り入れるだけの場合、それは流通業型の新事業展開といえます。
弊社では新事業の企画検討にあたり「製造業型」で専門性を発揮することを強くお勧めしています。その理由は、製造業型が付加価値を検討するのに対して、流通業型が売れるモノからの手数料を抜く事業構造にあるからです。
例えば、お蕎麦屋さんの「かつ丼」は、独自のダシ、揚げの技術、お蕎麦との親和性、和食文化への理解…といった能力の応用なので製造業型の専門性発揮といえることです。
一方、「とんかつ専門店」という新店で、△△豚使用、低温調理、ご飯おかわり無料…といったことであれば、それらは既にあることを持ってきているという意味で流通業型の専門性発揮です。
独自路線の成長を歩もうと目指すならば、製造業型で専門性を発揮する意識が大切です。
専門性を流通業型、商品の取扱範囲で語ってしまっていませんか?
本物の専門性とは、製造業型だと知っていますか?