【第365話】新事業を成功させたければまず“型”を知る
「私共は、〇〇の成型技術を得意としておりまして…、××などにも弊社の部品が用いられています」とのご説明には技術に対する自信がみなぎります。
「そこで受注の不安定さや取引価格の課題もあり、技術力を活かして新分野への進出を検討しておりまして…」とのこと。
素晴らしい取組みであることから、今後、準備していくべき全体像についてお話を進めていると…、なぜか場の空気が重くなってきました。
まずこういった場合、大抵は最初のうち空気が重いものの、お話を進めていくうちに少しずつ打開策が見えてきて、最後には「できそうな気がしてきました」となって明るくなっていくものです。
ところが、今回はその真逆なのです。稀にこういった逆パターンが起こります。
なぜ、こういったことが起こるかといえば、その要因はいつも簡単です。それは、「新分野進出」と言いながらも、その意識は単に「新しい取引先を紹介して欲しい」だからです。
このため、打合せが進むにつれて「取引先、紹介してくれないんだ」となり、だんだん空気が重くなっていったという訳です。
それならば、最初からそう言って欲しいところですが、「売上、下さい」と言えないそのお気持ちも重々承知しています。
もちろん、新たな顧客開拓を進めること自体、とても大切なことなのでぜひとも進めていただきたいのですが、問題は今のままでもらえる仕事がまだどこかにあるかも…と考えている経営意識にあります。
そんな際には、経営の「ピッチャー型」、「キャッチャー型」の違いについてご説明して、「この際、キャッチャー型からピッチャー型に変えていきませんか」とお伝えしています。
経営トップが技術能力に自信やプライドがある場合、それは大切なことなのですが、ビジネスとして、技術能力をそのまま売ろうとしがちです。
「こんなことできます」と技術能力をそのまま売ろうとする経営意識を、さながら、「どんな球でも受け止めます」との姿から“キャッチャー型”と名付けています。
このキャッチャー型経営が通用するのは、必要性から需要が生まれるようなビジネスの場合です。お客様に必要性が生じてくれれば、それに対応してくれる調達先をお客様の方で探して来てくれるからです。
ただし、このキャッチャー型経営の問題は、基本的にはお客様の側で必要性が認識されるまで「待つしかない」ということです。
世の中が「足りてる時代」であることを前提とすれば、キャッチャー型で待っていたならば、それは「座して死を待つ」ようなものではありませんかということです。
では、「出て活路を見出す」ためにどうしていけばよいのでしょうか。それが“ピッチャー型”に変えていくことなのです。
ピッチャー型とは、こちらから球を投げることのできる経営です。どこかで生まれる必要性を待たずとも、こちらで準備さえできればいつでも投げることができるという、こちら次第の経営です。
ここで、どのように準備すればこちらから投げることができるようになるのでしょうか。それは、技術能力をそのまま売るのではなくて、お客様の用途や便益に転換してから売るという一工夫を加えることです。
大切なことなので、もう少し補足すれば、足りてる時代に新たな販売を企てようと目指すならば、「こんなことできます」を「こうしてみませんか」に転換してから売ろうとする一工夫で、経営がこちらから球を投げられるようになるということです。
「こんな素晴らしい技術で作った“ゴザ”です」と言うのか、「急に雪が降った時に備えて“ゴザ”はいかかですか」というのかは、単なる営業トークの違いなどではなく、もっと根深い経営姿勢の違いが現れているといえるでしょう。
一工夫を凝らして、世の中に自ら球を投げていますか?
待ちのキャッチャー型から攻めのピッチャー型にしていきませんか?