【第313話】経営を更新していくために欠かせないリスクの取り方
「コンサルとして、これからをどう読んでますか?」――、親しくさせていただいている社長方と一献傾けていた際のご質問です。
今、新型ウィルスの世界的な蔓延で、世の社長、経営者は、かつて経験したことがないほどのプレッシャーにさいなまれています。
それもそのはずです。世の中のリスクを背負っているのが経営者であり、そんな経営者を、自分たちの力をはるかに超えるようなリスクが襲っているからです。
大抵の場合、企業では売上が陰ると社内の問題が大噴出します。これと同様、世界情勢も経済が陰るとそれまで隠れていた問題が表面化してきます。
このため、想定もしなかった世界レベルの問題がこれから顕在化してくると予想され、どうなるのか、どうなってしまうのか…。物事が新たな均衡状態に至るまでの調整過程があまりにも複雑で、その得体の知れない底深さが「読めない未来」となって経営者の心に襲い掛かっています。
こうした状態の時、感情的にならず、冷静かつ論理的に判断を下していくために、まず大切なのは、当座をしのげる資金的な算段をつけることです。
これは、手元資金を厚めに…という意味ですから、資金調達を最大限に積み増すと同時に、設備投資の抑制延期はもちろんのこと、売掛サイトの長い取引なども再度の検討を要します。
それはともかくとして、実のところ、事業経営において最強の資金調達は「売上」です。会計制度上そう思われていませんが、最前線に立つ経営者であるならば、お分かりいただけるものと思います。
不思議なもので、経営の意識は、イケイケの時には「売上」に、コケコケの時には「現金」に向かいます。
これは、イケイケの時には「売上さえ上げれば問題ないんだろ」という攻めの気持ちが生まれ、コケコケの時には「あとどれだけ存続できるか」という守りの気持ちになるからに他なりません。
このように、売上というのが数字という客観的な量であるが故に、下がっていることが分かりますし、あるいは、その水準が損益分岐点を下回って赤字に転落した途端に、経営者の意識は守りに転じてしまいがちです。
これは実に当然の話です。寒いから縮こまった。それだけの話です。
しかし一方で、この間に大切なことは、「この冬が明けて、春がきて、その時、今と同じでいいのですか?」ということです。
というのも、足元が停滞して、時間的な有余ができた今こそ、新たな高みに向けて事業フォーマットを更新するのに最適なタイミングだということです。
これまで、忙しいあまりに手を付けることができなかったことに挑むべき時です。売上が半分になったとしても、その10倍を目指すことを許されている。それが経営者の特権です。
そもそも、経営者はリスクの世界を生きています。来年の売上がほとんど確実に見通せている…といった場合、そこから生まれる利益はほとんど無いでしょう。それが、リスクとリターンというものです。
ただし、リスクを負う覚悟とは、経済状況、景気、トレンド…といった外部環境の変化のどちらかに賭けるだけのことではありません。
むしろ、自らの事業フォーマットを更新し、もっと難易度の高い事業に挑戦していくという、内なるリスクを負っていくことこそ、その本質です。
これはある意味、心配しても仕方のない外部リスクのことを考えるのは程ほどにして、自社にしかでき得ない内部リスクの負い方を考えるべきということです。
いつの時代も、自らの事業フォーマットを更新し高めていくことを考えるのが存続発展の最善策です。
量よりも質で経営を更新しようとしていますか?
外部リスクよりも内部リスクを取っていますか?