【第302話】直販なき経営に繁栄なし

「この新事業は、ネット販売を中心に組み立てていこうと考えています」というのは、これまでにいくつものロングセラー商品を作り、卸売、小売を通じて販売してきた企業の社長です。

 

そして、このように考えて準備した新商品は、現在、〇億円の売上、納得の利益率を誇りながら今も堅実な成長を続けています。なすべきことをなせば…、いつの時代にも勝機はあります。

 

昨今、新型コロナの影響もあって、既存店や既存流通チャネルでの販売が落ち込んでいることから、「ネット販売を強化したい」というご要望をお聞きします。

 

この際、とても大切なことなので絶対に、しかも最初にお伝えしていることがあります。

 

それは、「ネット販売」というのはあくまでも手段であって、経営意識としては「直販」を進めるという気合で入らないといけないということです。

 

これは、つまり「自分で売る」ということに他なりません。今まで他社に頼っていた販売や広告を自分たちでやるんだという意識の問題です。

 

手段を導入するだけなら簡単です。経営上の勝負というのは、その土俵に乗るまでのことではなくて、乗ってからの話です。

 

なぜ多くのネット販売が不発に終わっているのかといえば、こういった勝負勘への意識が薄いまま、「ネットで売れるらしいね」、「これからはネットでしょ」、「自動で売れていくなら楽だよね」といった勘違いから入ってしまうからに他なりません。

 

当然のことながら、弊社が消費財販売でも法人営業でも「直販」を強く薦めているのには、理由があります。

 

それは、何十年も前には「卸の中抜き」、昨今では「小売のネット化」、あるいは「マーケティングオートメーション」といった“部分”として切り取られますが、大きな流れとして「流通販売網の構造改革」があるからです。

 

この大きな構造改革の起点となっているのは、「足りてる時代」に突入したことであり、この改革に拍車をかけたのが、独占禁止法における「再販価格維持行為」の厳格化です。

 

まず、足りてる時代、成熟経済の時代、少なくとも必需品の国内需要というのは一定規模を維持しつつも、足りているために価格競争に陥りがちです。

 

そして、再販価格維持行為の禁止で「メーカー希望小売価格」を表示できなくなったことで、購入者は商品の価格指標、参照値を失いました。

 

再販価格維持行為は、需要と供給による正常な価格形成を妨げて、消費者利益を阻害するとの理由から独禁法で禁止されている訳ですが、これを、供給者、メーカーから見たならば「価格は市場任せ」を意味します。これは、販売を卸売、小売に任せていたならば「値崩れ必至」ということです。

 

こういった状況に対応して、優れた企業は生産のみならず販売チャネルの内部化をすでに進めています。卸売の機能を内部化したり、自社の流通チャネルにあたる小売を買収したり、ネット直販を開始したり…。

 

商売を強く、永く維持していこうとするならば、価格の形成に対して一定の影響度を保持しなければなりません。そのための戦略が「直販」なのです。

 

ただし、この道を行くにも覚悟が必要です。かつて、製品の卸値は6掛けとの相場観があったとおり、流通販売の料率は最終価格の4割にも及びます。つまり、具体的にはこのコスト4割分の仕事を自社でやる覚悟というこです。

 

この緩やかだけど着実な構造改革の進む中、独立自尊の新たなビジネスの構築を考えようとするならば、商品の開発生産のみならず、流通販売の体制まで含めて全体を準備する意識が大切です。

 

いいものなので売ってください…などと、かつてのように流通販売の他力を望む限り、納得の価格、納得の売上利益、納得の高収益、独自路線の成長発展は実現できないのだと、知っておくことが大切です。

 

経営の「直販」化を進めていますか?

そのために必要な覚悟を持って進めていますか?

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