【第263話】新事業を鳴かず飛ばずで終わらせない販売意識の持ち方
「おかげ様で、少しずつ“応援”の輪が広がってきているんです」と仰るのは、やっとの思いで新商品を開発し、これからだという社長。なんでも、商談会に出展したところ好評を得て、これからに手ごたえを感じているご様子です。
「今後のご計画は?」とお聞きすると、「まずはクラウドファンディングで応援を集って、ファンを増やしていきたいと考えています」とのこと。
社長よりコメントを求められましたので、「このままの意識であれば、この新事業・新商品を成長路線に乗せていくのは、ほぼ難しいでしょう」と、ハッキリお伝えしました。
当然のことながら、社長はもっと力の入った声で「この商品は…」と応戦が始まりましたので、「商品力のことを申し上げているのではありません。今お伝えしているのは販売に対する社長の意識のことです」とお伝えしました。
当たり前ですが、事業を維持発展させていこうと考えるならば、良い商品・サービスを創ると同時にそれを販売していかなければなりません。
そして、販売を拡大していこうとする際、販売を「お客様から応援を得る活動」と考えることで、経営はある大きな問題を抱えることとなります。
それは、いずれ事業の採算が成り立たないという致命的なものです。なぜそうなってしまうのかといえば、そこには厳然たる原因結果の法則が存在します。
まず、事業経営において販売を拡大するというのは、実のところ大切な条件が含まれています。それは、「採算が成り立つ“価格”で」ということです。これは何もボロ儲けといったことではなくて、創意工夫や事業リスクに鑑みて適正な価格でということです。
昨今、経験が浅く、厳しい現実、大先輩方の没落をあまりご存知ない若い経営者に多いのですが、「その事業プランでは採算が厳しくなるのではありかせんか?」と指摘すると、「私たちは儲けようと思っていませんので」と答えるのです。
何もボロ儲けしようとお伝えしているのではありません。優秀な経営者が必死で漕いでも採算を成り立たせていくのが大変な諸行無常のビジネス界で、適正価格での販売が実現できない限り、それを大量に売ったところで採算は成り立たないという至極当然のことを指摘しているにすぎません。
販売を“応援”と考えると、なぜ事業を維持できる採算が成り立たないのか…という原因もここにあります。つまり、商品力があっても販売で失敗して堕ちていくメカニズムです。
なぜそうなってしまうのか…、それはとてもシンプルです。販売しようとすればするほど、応援を獲得しようとしますので、その結果、商品価値の理解者である本来お付き合いすべきお客様層よりも、下の層に降りていくということが起こるのです。このため、適正価格が維持できず、事業を維持できなくなるのです。
当然のことながら、販売を適正な価格で実現させていくためには、その商品が持つ価値をお客様が理解して下さらなければなりません。そのことに気付けば、販売を拡大していくための起点は、その商品価値を認めてくださる本物のお客様だということです。
まずは、この本物のお客様へ適正な価格で販売できることを目指して、そこを突破しない限り、販売の“拡大”という世界への入口に立ったことにならないのです。
事業の豊かな成長発展を実現させていく、販売を拡大していくというのは、こういった本物のお客様とのお付き合いの拡大であり、これは、大衆から安易な応援を集めることとは根本が違います。
価値の分かる目利き、本物のお客様へ適正価格で販売していくというのは、経営者として真剣勝負です。このため、営業トークにも本気が宿ります。
一方、販売を“応援”と考える経営者は、広く大衆からの応援を集めようとしますから、営業トークが商品価値の説明をさて置いて、事業への取組み背景といった勝負を避けた間接的なものに留まってしまうのです。
真に新事業の成長発展を願うならば、本物のお客様に適正価格で販売するという真剣勝負に挑まなければなりません。これは決して、応援、共感、賛同、支援…といった「ゆる~い」要請ではないということをお忘れなく。
価値訴求による本気の販売に取り組んでいますか?
本物のお客様に販売しようとしていますか?