【第262話】成功経営者は“正義”よりも“理想”を語る。
「素晴らしい事業計画ですが…、このままだと上手くいかないと思います」とお伝えすると、これまで意気揚々とお話されていた社長の顔が曇ります。
実際、この事業計画は、事業目的、経営環境分析、技術開発の力点、新商品の特徴、実施スケジュールといったことが、とてもしっかりと論理的に整理されています。
しっかりと計画がなされているのに、なぜ、このままだと上手くいかない…とお伝えしたのかといえば、もちろん根拠あってのことです。
まず、取組み理由が論理的で分析的というのは、ある程度は必要なことですが、論理を構成する出発点や中身が、統計データや顕在化した社会課題といったこと、つまり、社長ご自身の外側から出発している場合、その分析は、誰もが「そりゃそうだ」という、一つのあるべき状態に収束しがちです。
このため、事業計画がいわば“べき”論で構成されているために、経営という人間の営みから発せられる鮮やかさを失い、どこか窮屈でモノクロなものになってしまうのです。
もう少し補足すれば、一つのあるべき状態を目標としているために、事業計画が“正義”を振りかざした道徳論、伝家の宝刀を最初から抜いてしまっている感じになっています。
これは、例えるならば、実施の根拠を必要とするお役所的な事業計画、必要なことなのだから税金を投じてその事業を実施するための拠り所を整理する計画策定に似ています。
「それの何が悪い」というお声が聞こえてきそうですが、もう少しお付き合いください。この取り組み自体が悪いと申し上げているのではありません。その意識のままだと、事業が上手くいきません…とお伝えしています。
なぜそう言い切れるかといえば、正義感から取り組む“べき”という文脈のために、取組み自体に意義を見出してしまっているからです。このため、事業計画がいわば「お客様不在の世直し計画」になってしまっています。
当然ながら、事業経営というのはお客様活動です。つまり、お客様に商品・サービスをご購入いただき、その対価を得ながら事業を存続発展させていく以外に道はありません。
これを逆から見れば、我々はお客様を通じてしか世の中にアクセスすることはできないということです。直接的に世直しなどできないのです。
もちろん、経営者として意識を高いところに持つことは大切なことですが、一方でそれを本気で実現していこうとするならば、それは必ずお客様にご購入いただくというプロセスが欠かせません。
さらに申し上げれば、事業の存続発展を目指すならばその購入動機も大切です。それは、取組みへの共感や賛同といった間接的な訴求ではなくて、商品・サービスがお客様にもたらす直接的な便益の対価であることです。
難しい話をしているのではありません。共感や賛同といったことでお客様に購入を迫るということは「良いことなのでご協力ください」と言っているに等しいのです。これは言い換えるならば「募金活動」であり、実態は「上から目線のお願い営業」でしかありません。
よって、何が起こるかといえば、例え購入があったとしても、それは「一回キリ」だということです。同じ募金に二度目…を期待するのは難しいことです。このことは事業の継続が難しいことを意味します。
目指す状態の実現に向けて事業を存続発展させていこうと考えるならば、その唯一の道はお客様に商品・サービスを通じた便益を提供し続けていくことです。お客様に対して、「こうだと嬉しくないですか」と叫び続けていくことです。
これは、外部の分析から導かれた“正義”というよりも、むしろ経営者の内発的なお客様へのメッセージ、いわば“理想”を語っていることといえます。
経営者、百人百様…、経営者の数だけ“理想”があってこそ、世の中が躍動し鮮やかになるというものです。
“正義”の実現は政治家へお願いするとして、事業家は“理想”を掲げ、お客様のご購入という具体的なプロセスを経てその実現を目指していく意識が大切です。
“正義”ではなく“理想”に燃えていますか?
世の中がどうであろうと、ご自身の“理想”を語っていますか?